珍しく随筆です. 2月も中盤になるというのに,就職活動が全然進んでいない3年生がけっこういらっしゃいます. 何度も指導しているのですが,企業探しや履歴書の執筆,エントリーシートの作成などにぶつかった途端, 開いていたブラウザは気がつけば違うサイト,いつもの趣味サイトなどを開いています. そんな学生には,ゼミのたびに,だんだんと厳しい話をします.時にはFacebookやLINEを使ってお説教じみたことを言うこともあります. ・履歴書の左側を書きましょう. ・履歴書の右側を下から順でも書いてみましょう,EXCELのテンプレでもいいです. ・特に「大学時代やってきたこと」が書けないはずです,まずは箇条書きでもいいから書いてみましょう.次は構造的な作文です. ・構造的な作文ができないなら,先生に相談しましょう. ・熱意は足りていますか?誠実さはありますか? ・第一希望ばかり受けていませんか?名前の知らない会社だからといって甘く見ていませんか? 12月の中旬からもう,2ヶ月そんな感じでしょうか. 全員ではありません. まわりではもう,SPI試験や面接試験の話が聞こえてくる人もいますから. 2ヶ月前から「就活しなきゃあ・・・」からその先にマインドが進んでいない感じです. 長い「お正月休み」が終わっていない感じの学生が今年の就活生の特徴ですね. まずはコタツから出て,ジョギングでもしてきたほうがいいのかもしれません. ところで,この時期,休日を利用して,高校生と親御さんで大学のキャンパスを見学されている様子を拝見します. 1校しか受かっていない,推薦などの状況ならばともかく, 複数の大学に受かったのであれば,親御さんとしては,学費や4年間という学習期間に対して,この大学は見合っているのか,など厳しい目で見ていらっしゃると思います. 大学を選びにおいて,就職先は重要な魅力でしょう. しかし就職先がゴールなのかというとそうではないということは親御さん自身がわかっていらっしゃることでしょう. きっと,親御さん自身も就職採用試験の面接で,今時の大学生に対して 「何を考えているのやら…」というような思いを抱いたりしているのではないでしょうか. 「情報学部卒ならば,これぐらいは当たり前にできて当然,そうでなければサラリーはもらえないぞ!」 そんなお話はご自宅でもしっかりとしてあげてください.それが父親の仕事だと思います. 単なるITスキルのお話だけではありません, ITスキルのない人々との接し方や,世の中の見方,業務分析や,世界を見据えた動向に, 自分自身がどのように身をおくか,という現代のビジネスマンにおける意識のお話です. それは,遠い昔,人類が,洞窟に暮らしながら,男たちが狩りに出て,子どもたちを育てていた頃から, 何ら変わらない「情報の伝達」なのだと思います. 『外の世界には,こんな動物がいてな』 『こんな危険がある』 『こういうふうに協力して獲物を捕まえる』 『あいつはすごい能力を持っている,言うことを聞いた方がいい』 『獲物を捕まえた後の充実感は素晴らしい』 こんな話を楽しそうにしてあげて欲しいのです. いわゆる学力ランキング的にはうちは底辺あたりかもしれませんが,勉強が嫌いな学生は意外と少ないです. (感覚的には5割以上は,むしろ勉強が好きだという自覚があると思います) いわゆる受験勉強の呪縛に毒されていない良い学生も沢山います. しかし「やらねばならない勉強」から逃げるのも,就活から逃げ続けるのも, 有名大学に行きながらも「他人の評価が怖くて自分で進路を決められない人」も, 実は同じ事なのかもしれません. もちろん 「やらなければならない勉強から逃げ続けた上に,自分で進路を決められない人」 もいるので,世の中甘くないのですが. この時期,高校3年生でも,大学3年生でも, 進路にお悩みのお子さん(本人は悩んでいなくても)をお持ちのお父さん. ぜひとも「世の中の荒波をいかに泳ぎきってきたか!」についてお話をしてあげてください. もちろん,学費という大きなお金が出て行きますので, 『しっかり勉強するんだぞ』の中身については,もうちょっと『しっかり』と吟味していただきたいのです. いま,大学は「4年行けば就職できる場所」でしょうか? もちろん「どこでもいいから就職に向かって邁進して来ました!」という3年間をお過ごしの大学生であれば,それは十分可能だと思います. そういう生活を「しっかり」と定義するのであれば,それはそれで良いと思います. でも,うちの子は「どうせ,好きな事しか続かないからな…」とお思いのお父さんもいらっしゃると思います. そうであれば,たったの3年間で「好きな事を仕事にする」という大偉業を成し遂げることが「しっかり」になるわけです.これは大変です. そのような学生さんには,4年間ではなく,ぜひ研究生活に入るB4,M1,M2,つまり「大学院ふくめ6年」で大学を選んで頂きたいと思います. 私の理解では,大学院修士とは, 誰かが仕事を降らせてくれると食えるような「問題解決能力」ではなく, 自分で仕事を探して生み出せる「問題発見能力」を身につける場です. 「自分で考える能力」と「道を切り拓く能力」が 修士の2年で身につくかどうかはわかりませんが, 希望の分野の研究室に入ることができれば,スペシャリストである研究者に直接師事することができます. 受験勉強や3年までの学習習慣で積み上げていたことが生かせるかどうかも, 3年生のこの時期から就職活動を通して,社会を学び,大学院の修士1年までに「どれだけジタバタしたか」にあると思います. また,専門家が専門の中に閉じこもるか, 専門性を生かして社会を変えられるか,という視点で見ても, 世の中に必要とされているのは前者ではなく後者ではないでしょうか. 例えば,幼少期にイジメられた子供がいたとします. その記憶を長い時間をかけて,どう乗り越えたのか. イジメられない世界に行くのか,目立たないように生きるのか, イジメられないように別の能力を発揮させるのか,いじめる側に与するのか ……その後の本人の人生に大きく影響をおよぼすように思います. 技術の世界に生きていたとしても,大きな意味で,生きていく上で,この時期(高校3年,大学3年)に,社会を学ぶことは大変に重要であり, 身近な大人である,お父さんがたの情報は(見た目は聞いていなかったとしても)大変参考になるはずです. ちょっと話がずれましたが,白井研究室の修士は2月の3連休だというのに, 全員研究室にいて,研究活動に勤しんでいます.しかも自主的に. 結構辛い作業ですが,勉強になるし,スキルも上がっていることを感じるから,先生も自然に「付きあおう」という気になります. うちの修士学生には,覚悟があります. エンジニアである前に,社会人であり,ビジネスマンであり,自分がやりたいことに対して,辻褄はハッキリさせる修士たちです. また,貧乏学生であることも重要なポイントだとおもいます.学費が安いのもうちの大学の特徴ですが. 歴史や施設や広告によって築きあげたブランドではなく,研究そのものの社会への意味,その技術を通して,社会に何を伝えたいのか, そして,それが自分自身の「裸一貫でも戦える武器」になっていることを感じているのだと思います. 大学という枠組みの中だけで飯を食ってきた人間ではなく, この業界のありとあらゆる職業を体験してきた人間だからこそ伝えられる, 「世の中の厳しさ」を,これからも伝えていく父親でありたいと思います.