PokemonGo大型アップデート記念! https://twitter.com/o_ob/status/832422572511760388 本稿は、株式会社オリンピックが発行する株主向け小冊子「KoSaTen(交差点)2016年冬号(Vol.47)」の巻末エッセイ「時代を読む」に寄稿した 「ポケモンGO」が拓く、歩きと愉しみの関係。 の再掲です(原稿の執筆は2016年10月5日)。

ギネスブック同時5記録達成の「お化けゲーム」

2016年7月22日、待ちに待ったスマホゲーム「ポケモンGO」が日本でも公開されました。配信初月でもっとも多くの国でダウンロードされ、ダウンロードチャート1位を総なめし、売上チャート1位も総なめし、配信初月でもっとも収益を上げ、もっとも早く売上高1億ドル(約100億円)に到達したモバイルゲームとしてギネスブックに同時に5つの記録を達成した、文字通り「お化けゲーム」です。この記事をお読みのみなさんも、きっとインストールして、プレイしてみたことと思います。 実はこのゲームの開発会社は「イングレス」というゲームを三年以上前に開発していました。イングレスは世界中にあふれる謎の力を追い求めて、スマホを持ってエージェント(スパイ)として、囲碁のように世界を二分した陣取り合戦を行うゲームです。このゲームの中で不思議な力が湧き出す泉を「ポータル」と呼び、プレイヤー自身が写真を撮って申請することができました。ポータルは、寺院仏閣や教会、郵便局や地元の珍しい銅像など、人が集まる場所やアート性のあるものなどが選んで採用されました。ポケモンGOに存在するポケストップやジムはそのデータがそのまま使われているのです。

ひとは歩いているだけで、おもしろい

しかし、ポケモンGOはなぜここまで広まったのでしょうか。「ポケモントレーナーになれる」という点、ポケモンの可愛らしい映像も魅力的ですが、それだけではここまで爆発的にはヒットしません。それは「歩く」ということに注目した新しい体験だからです。現代社会において、歩きたい人・歩ける人はたくさんいます。きっかけや目的が欲しいのです。イングレスに共感した層はSFファンの四十代男性が多かったのですが、ポケモンGOは現在三十代の初代ポケモン世代に加えて、もっと上の世代にも響いているようです。ポケモンで育ったお孫さんやお子さんを持つ熟年〜初老といった世代が熱心にプレイしています。本人は、そこまでポケモンに興味はなかったけれど「歩くという誰でもできること」で貢献できるなら、早朝の散歩や犬の散歩のついでに、共通の話題ができていいかな?という感じで入り込んでいるようです。筆者の研究ではこれを「複合ペルソナ」と呼んでいます。

まだまだ進化するゲーム

世界中でいろいろな社会現象を巻き起こしているポケモンGOですが、国や地域でずいぶんと温度差は異なるようです。日本は熱狂的なプレイヤーが目立ちますが「日本人が特殊」という話ではなく、車を使わずに生活できる、密集度が高い都市に公園や寺院のような広場を多く持つという点がポイントのようです。 そしてこのポケモンGO、まだゲーム自体は当初設計の三分の一ぐらいしか実現されていません。まだまだ多くのプレイヤーを巻き込んで、人々を新しい世界に連れて行ってくれる可能性があります。それはゲームの中だけの出来事ではありません。世界を観察しながら気楽に歩いて、ポケモンたちと記念撮影を楽しんでみてください。いままで「見えない世界の出来事」だった存在が、より身近になっていくはずですよ。 白井 暁彦(しらい あきひこ)神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科 准教授 VRエンタテイメントシステムの研究者。東京工業大学 知能システム科学専攻卒、博士(工学)。事務機メーカー、ゲーム業界、放送業界、フランスでのテーマパーク開発、日本科学未来館科学コミュニケーターを経て現職。位置情報ゲームの活用や多重化映像システムなど幅広く研究。著書「白井博士の未来のゲームデザイン -エンターテインメントシステムの科学」他。