CGとインタラクティブ技術の国際会議 SIGGRAPH 2012 Los Angeles   白井暁彦   【写真1:ロサンゼルス・コンベンションセンター】 2012年8月5日〜9日の5日間,米国カリフォルニア州ロサンゼルス・コンベンションセンターにて世界最大級のコンピュータ・グラフィックス(CG)とインタラクティブ技術の国際会議「ACM SIGGRAPH 2012」が開催された(写真1).SIGGRAPHはACMの中でも比較的長い1974年からの歴史をもち,ハリウッドを中心とした世界の映画産業と学術コミュニティに多くの会員を擁するCGとインタラクティブ技術の国際会議である.ここ数年は夏の北米開催,冬のアジア開催という流れで運営されており,冬は7,500名程度の参加者であるが,本家ともいえるカリフォルニア州ロサンゼルス開催年は2万人を超える規模で開催される. ●最先端の研究を1分で共有する「Paper Fast Forward SIGGRAPHのフルペーパー論文は採択率にして15~25%で,難度は高い(今年は412件の投稿に対して94件の採択).またここ数年の最大の人気セッションは初日の夜に開催される「Paper Fast Forward」(写真2).その名の通り「論文の早送り発表」で,採択された研究者が1件1分以下でその研究の見所をビジュアルや寸劇を交えて超高速で紹介する.94件もあれば2時間弱の時間がかかるが,飽きさせない.このようなビジュアル+エンタテイメントのプレゼンテーション文化はSIGGRAPHならでは.なお,論文で興味深い内容は「Display」セッションでの振動高解像度ディスプレイ(UC Berkeley),多層LCDと指向性バックライトによる裸眼高被写界深度を実現した「Tensor Display」(MIT),「Fun with Video」のセッションから動画の任意の特徴だけを抽出した不思議な動画生成技術「Selectively De-Animating Video」など多数かつ高度であり紙面で伝えるのは難しい.   【写真2:2時間・100件近い発表も飽きさせないPaperFastForward●世界のゲーム映像技術「リアルタイム・ライブ!」 コンピュータアニメーション作品のセッションの中でも,近年特に人気が高いイベントに「Real-Time Live!」がある.映画のような時間をかけた映像生成ではなく,ゲーム開発各社を中心としたリアルタイムグラフィックスのデモである.グラフィックスプロセッサメーカであるAMDからは「Leo Demo」というデフォルメキャラクターを使ったアニメ映画スタイルのシーン(写真3), 2000個の動的ライト,この動的ライトを使ったグローバルイルミネーション技術「Virtual Point Light(VPL)」を中心に紹介した.AMD社のサイトからデモが入手できる.ゲーム製作各社からは「Uncharted 3 Visual Effects」として,Naughty Dog社が炎に包まれる古城からの脱出シーン,ロシアUnigine社はゲームエンジンによる自然物シーン「Valley」デモを公開,Epic Games「Unreal 4技術デモ」としてSparse Voxel Octree(SVO)法による動的なシーンに対するグローバルイルミネーションの実現.Activision Blizzard,Jorge Jimenez氏「Separable Subsurface Scattering(SSSS)」による顔面のリアルタイムレンダリング,特に眼球のキャッチライト,充血の具合までリアルタイムシェーダ化しているが,その印象の違いは印象的であった(写真4).眼球シェーダー以外の部分が動くDirectX10で書かれたデモが公開されている(http://www.iryoku.com/separable-sss-released). Lucas Arts Entertainmentからは「Star Wars 1313」,顔面の詳細キャプチャと全身のモーションキャプチャを組み合わせたパフォーマンスキャプチャを使った映画のワークフローそのままの大作ゲーム製作技術の紹介した.日本からも SQUARE ENIX の橋本氏が「Agni’s Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」として,YouTube動画で公開されている映像について「Luminos Studio」という名の次世代リアルタイムレンダリングエンジンの詳細について解説と人材募集が告知された.   【写真3:AMD社のリアルタイムムービー「Leo Demo」】   【写真4:Activision Blizzard 社による「SSSS」デモ】   ●Emerging Technologies インタラクティブデモ展示「エマージング・テクノロジーズ」は,日本人の発表が多いことで有名であるが,数多くの「未来のひみつ道具的」デモを世界に共有してきた.組み込み系エンジニアが興味を持ちそうな順で紹介すると,首都大・馬場らによる手書き五線譜読み取りMIDIデバイス「Gocen」(写真5),慶応大・舘研究室によるテレイグジスタンス・ロボットの集大成「TELESAR V」,電通大・梶本研の“身の毛もよだつ”を実際に体験できる「Chilly Chair」,東大・落合氏らによるシャボン玉膜と超音波振動による多質感ディスプレイ「A colloidal display」などが人気であった.   【写真5:手書き五線譜読み取り“Gocen”による合奏】   【写真6:シャボン玉膜振動による多質感ディスプレイ】 ●エキシビションにおける日本企業のプレゼンス 最近,WACOM社のタブレットやクレッセント社のHMD以外,めっきり減っていた日本関連企業のエキシビション参加であるが,今年はキヤノンによるMRシステムの提案(写真7),日立データシステムズ,NECディスプレイソリューションズ, エプソン「Moverio」など日本企業や製品展示が目立った年となった.一方で,韓国コンテンツ振興院(kocca)や,カナダ・オンタリオ州や、フランス・パリ市圏(CapDigital)なども国家・自治体が積極的にデジタルコンテンツ関連企業を支援しているのが目立っていた.   【写真7:キヤノンによる各種MR作品展示】 次回のSIGGRAPHは2012年11月28〜12月1日,5年ぶりにシンガポールに戻っての開催,一方,北米SIGGRAPH2013は2013年7月21~25日にディズニーランドのお膝元,アナハイムでの開催が予定されている.   These links are just my memo for my writing as a magazine writer. Technical Papers Preview Trailer [youtube]http://www.youtube.com/watch?v=cKrng7ztpog[/youtube] Tensor Displays [youtube]http://www.youtube.com/watch?v=4r6lY8S4A6E[/youtube] http://www.youtube.com/watch?v=4r6lY8S4A6E AMD “Leo Demo” http://developer.amd.com/samples/demos/pages/AMDRadeonHD7900SeriesGraphicsReal-TimeDemos.aspx Gocen http://tetsuakibaba.jp/project/gocen/ [youtube]http://www.youtube.com/watch?v=OjFNZD-bC5Y[/youtube] — <その他参考資料> SIGGRAPH公式ページ http://www.siggraph.org/conference/ 歴代のSIGGRAPHロゴとアートワークが掲示されている.なつかしい! SIGGRAPH@Wikipedia(English) http://en.wikipedia.org/wiki/Siggraph 歴代開催地と開催日,参加者などのデータがある.最近更新されてないね,更新するか…. SIGGRAPH 2012 Media Blog http://photos.siggraph.org/gallery3/index.php/SIGGRAPH-2012-Photos