長い長い執筆でしたがやっと終わりが見えてきました. http://www.sandboxsymposium.org/ ACMフォーマットでフルペーパーを書いたことがなかったのですが,1週間で10ページぐらいの内容だったらどうにかなるような気がしてきました. まあその分,痛む膝と家族を大事にできない1週間になってしまいましたが…それについてはまた機会のあるときにでも書きましょう. さて日本ではDiGRAの発足が大々的に報道されています. [ゲーム]日本デジタルゲーム学会が発足。2007年には国際学会を招致 http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=37906&media_id=17 http://www.rbbtoday.com/news/20060520/30967.html http://www.igda.jp/modules/news/article.php?storyid=826 とはいえ,メディアリレーションはIGDAの方々ががんばっていることでしょうから,注目されるのは彼らの成果でしょう.伊藤さんとか. こういうときは記事本体よりも,一般の方々の反応のほうが面白いです http://news.mixi.jp/list_quote_diary.pl?id=37906 一般のゲームファンは,学会が発足することで「おお,社会的に認知されてきたのだ」というような印象を受けるようですが,そのあたりがゲーム研究の「胡散臭い」ポイントであると思います. メディアは「ゲーム脳」とか判りやすくて奥様受けしやすそうな疑似科学を取り立てたわけですが,ゲーム研究業界的にはアンチゲーム脳のほうが主流です. というか,ゲーム世代のゲーム好きが集まってLudicしてるので,当然といえば当然なのです. こういうのを「遊びの研究」ではなく「研究者の遊び」と揶揄された時代もあることに注意です. 個人的にはDiGRAは様子見ということにします. なぜなら「地盤のいい学会」というのは金トリ学会としては良いのですが,茶飲み会としても,学術の探求の場としても,たいてい機能しません. たとえば情■処理学会とかは名前も地盤もいいのですが,研究者としては研究会しか利用価値がないです. 会報も紙は良いけどうざすぎます,なんと言っても会費が高いのがつらいです. ちなみに既に日本国内にはゲーム関連学会や大学コースがいくつも立ち上がっています. しかしその多くが「学者発ゲーム学会」で「研究者の遊び」という印象をぬぐうにはあまりに,ゲーム産業界との足並みが取れていません. ☆私がそう思っているだけかもしれませんが,本来ゲーム会社というのは業界同士では仲が悪いもので,他人より面白いネタがあったら盗み,占有し,秘密にし,マスターがあがったらこっそり捨てる,という風習があるものです.なので学術的に共有し,育てようと思うのであれば,そうとうかしこいフレームワークが必要です. さて業界により近いところでは「CEDEC」があります. これは東京ゲームショウを主催している業界団体CESAが開催しているチュートリアルスタイルの講演会ですが,査読もなく客観的な評価は参加者の数,ぐらいでしょうか.偉いプロデューサのありがたいお話とかはともかく,地味なセッションでもいいお話しが訊けたりするので私は嫌いではありませんが,とにかく価格が高い.泣くほど高い. 3日通しで5万も払うなら,講師になって講師パスもらったほうが幸せです. 大阪電通大にはコナミゲームスクールが母体になっているようなゲーム学科があるので,学者の遊びよりはむしろ,実技とは近い気がします.しかし学問としての公正性がやはり先にきてほしいところでもあります. あとはDiGRAに限らず国際会議を呼んでくる例もたくさんあります. ICEC,IWEC,ACEなどなど. どれも2002年ぐらいの誕生で,お互いが似たようなことを世界の各地でやってます. 日本もVR学会エンタテイメントコンピューティング研究会,など情報処理学会などとジョイントでECという国内の研究会も開催してます.基本的には活発です.大学ばかりで,ゲーム業界からの投稿がほとんどないのが特徴かもしれませんが(そればかりを否定する気はありませんが). 「面白ければ良いだろう」というスタンスでやってないこともないので,正直,付き合いきれないときもあります. しかしACEなどはACM SIGCHIが母体ですし,求心力があるというか,ネームバリューがあるので,投稿はかなりの数があつまります.そうなると査読のクオリティは結果として上がりますので,私としては参加するに値する,という感じになってきます. まあ,いろいろ書きましたが,基調講演の「Rules of Play: Game Design Fundamentals」の著者のひとり,Zimmerman先生の話はちょっと興味あります. 私もこの人がこの本と,その前の本を書く,かなり同じ時期に「エンタテイメントシステム」というフルペーパを芸術科学会に投稿・採録され,論文賞までいただいていたりするわけですし. http://www.art-science.org/journal/v3/award.html また,今しがた書き終えた論文も,日本語でタイトルを書くと「自然な遊びの状態下での新しいコンピュータエンタテイメントインタフェースの物理評価」という,ちゃんとしたもの,それでいて将来のこの分野の研究者が引用できるようにがんばった著作でもあります. この久々日記エントリーで何がいいたいか,というと,日本人が英語で,こういう論文を書かねばならんというこの状況をまずはどうにかしたいな,というのが私自身が解決したいポイントでもあります. また,国内学会でいくら論文賞を受賞しても,その内容が世界的に有名になるわけでもないですし,競合研究者や競合する学会からスルーされてしまうという,『非常に詰まらん事態』をどうにかしてほしいと思うわけです. 「学会」という仕組みがよくわからない一般向けに書いておきますが,こういう学会というのは,立ち上がればよいというものではなく,また人数が多いとか,歴史が長いとか,会費が高いとか,そういったことで評価できることでもありません.学会としての権威も含めて. やはりその分野に興味がある人が多く,そして学究的探求と共有が有効に働き(人的交流や技術のポータビリティ),さらに査読が厳しく,世界の頂点が認識できるような場所,というが重要だと思います. たとえばCGにおけるSIGGRAPHのように.歴史と,クオリティと実学と,産業との連携と,人的ポータビリティと,一般的な面白さを非常に苦労して維持している例もあるわけです. そしてそれらの苦労は決して,一部の運営者に閉じられているわけではなく,公開されているのです. 「How To Get Your SIGGRAPH Paper Rejected」 (どうやったらSIGGRAPH論文で不採録をもらえるか) http://www.siggraph.org/publications/instructions/rejected クオリティと実用の両方をとる, これは参加者にとってはものすごくきつい条件でもあります. しかし私は2001年のIVRC改革でこれを持ち込み,結果として,国内のインタラクティブ・VR技術の卵である学生の起爆剤をうまく作れたと実感しています. 今すでに,多くのIVRC学生がゲーム業界で働いています. 彼らは学会という場が何であるかをすでに垣間見て,さらに楽しいものを作るためのイノベーションはいかにして生まれるのか,人にそれを見せたときの楽しみは何であるのか,をよく知っているはずです. どのような形であれ,活躍の場が増えることはいいことです. しかし群れたからといって真実に近づけるわけでもないところが,学問の面白いところでもあります.