フランス語の学習ノート「つまづきフランス語」ばかり更新しててすみません。 http://ameblo.jp/furago/ さて、今日はあるMLであるお方から 「フランスのマンガ市場について」 というテーマでディスカッションを受けたので 私自身、一回この話題でちゃんと考えてみたかったこともあり、 かなりしっかりまとめてみました。長文です。 まずは純粋な活字マーケットだけで市民層をみると、日本と比べて例えば ・TGV車内でビジネスマンはパソコンかペーパーバック、新聞を読んでいる ・ハリーポッターはポップが出ているが、並んで買ったという話は聞かない ・雑誌は多様だが文字より写真が多い ・無料で読める活字メディア(metroのような)が多い ・日本の電車内広告のようなものはない といった違いがあるように思います。 アンチ活字メディアの動向としては DVD自動レンタル機が結構な数普及していて、 ストーリーテリングを追いかけるタイプの娯楽は明らかに DVDにシフトしているように思います。 (仏語版はカナダのおかげで日本版より早く発売されます) ただDVDシフト化の傾向は、大学生以上なのではないかと思います。 予科からリセ以下、つまりティーンエイジャーはお小遣いが限られてますから、 知り合う若者などをつてに聞き込みしてみると、 以下のような消費傾向があるように思います。 携帯電話代>雑誌・書籍類>音楽>PCゲーム>携帯ダウンロード>ゲームソフト>DVD (若干順序は違うかもしれませんが) これにタバコ代などが入ってきたりするわけです。 お小遣いというよりはベビーシッターなどのバイト代が収入源なのと、 ベビーシッターや高校の行き来の電車やバスで待ち時間がありますので、 勉強する以外は携帯ゲームや読書などが人気の「暇つぶし娯楽への投資」のように見えます。 書籍関係に注目して、性差で言うと女の子は ・派手めな子はファッション雑誌 ・地味目な子は小説、マンガ ・男の子はあまり本を読んでない、雑誌はスポーツ関係など ・まじめな男の子は時々小説や勉強をしている。 ・ゲーム雑誌は大人向けが多い ・壮年向け園芸、旅行、料理の本/雑誌が多い というところが目に付きます。 ときどき「フランスマンガ市場ひとくくり」にされた上に 「日本のmanga, animeが流行っている」という報告がされることがありますが、 街の書店やカルフールやヴァージンなどの書店コーナーを観察する限りでは、 ちょっと誤解のある表現だと思います。 余談ですがanimeは英語では日本アニメのことを指すことが多いのですが、 フランス語ではもとから「anime」は「生きている・活発な」という形容詞として存在します。 ※例えば私の専門であるインタラクティブアートや、リアルタイムグラフィックスにもanimeとかartといった言葉を使います いまはほとんど絶滅しそうな感じの言葉ですが、フランスの純マンガ(劇画)「B.D.(バンデデシネ)」に対して 「Bande Anime」とか「Dessin Anime」という言葉もあります。 フルモーションのアニメーション映画のことです。 デッサンアニメは日本のアニメに対しては使われているのを聞いたことがありません。 手書き感のある古いフランス産のアニメに対して使われることが多く、 日本の週間放送のアニメは「anime japonais」とか呼ばれてることがあります。 また書店コーナーではこんな感じに別れています ・小説 ・実用書 ・図鑑、辞典類 ・B.D. ・manga ・絵本 雑誌、ムック類はたばこ屋で売ってることのほうが多いです。 店と客層にも寄りますがmangaコーナーはB.D.コーナーのだいたい面積比1/3以下です。 B.D.は表紙がハードカバーで装丁も美しくB4サイズと大きいので、新刊~1年ぐらいは平積み もしくは専用のB.D.棚に飾られています(背表紙は地味なので)。 値段は10-15Euroとけっこう強気のお値段です。印刷も前頁カラーですが。 対してmangaコーナーは日本の書店と似た感じです。 全館セットのパッケージなどで売られていることもありますし、 ときどきキャラクターグッズなども売ってます。 「ラブひな」の「日仏手帳」というフランスオリジナルの手帳があったときには驚きました。 値段は日本で500円以下で売られている単行本が5-10Euroといったところです。 B.D.もmangaも日本の書店と大きく違うことは「子供向けではない」というところでしょうか。 B.D.の表紙は半裸の女性とか、ドラマ、サスペンス、ファンタジー、美、などをテーマにしたものが多いです。 実際中身も、日本の出版界なら「劇画扱い」でしょう。 対してmangaコーナーも内容は子供っぽかったり、格闘ものが多いのですが、 それ以上に女の子の描写が特徴的過ぎて(目が大きすぎ、露出大、幼女…)、 立ち読みしているのを近所のマダムに見られると、ちょっと後を引きそうな雰囲気があります。 なおポケモン、遊戯王のマンガを子供が読んでいるのを見たことはありません(玩具は人気)。 ドラえもんのような日本社会が如実に描写された子供向けマンガは書店で見たこともありません。 ドラゴンボールはなぜかスーパーの書籍コーナーでよく見かけます。ペーパーバックです。 気をつけたいのが、普通に書店のmangaコーナーに韓国や香港のマンガ作品が混ざって売られていることです。 日本人が見れば日本のものでないことは判りますが、韓国産ネットゲームと同じで、 絵柄が似ていて、ストーリのツボのつき方が判りやすくて、翻訳されてしまうと、 書店としてはもう原産国なんてどうでもいい感じで並んでいます。 小さな子供は区別がついていませんが、小学生ぐらいになると 好きな作品の原産国と傾向などはそれぞれ明確に認識しているようです。 集める子はB.D.か日本マンガどちらかで、両方というのは見たことがないです。 (お金があるならやるのかもしれませんが) たばこ屋にも「花ゆめ」のような少女マンガの再編ムックが出ていることがあります。 (最近日本のコンビニにも似たような分厚い再編ムックが出てますよね縮刷版で) これは比較的買いやすいんですが、値段としては10Euroぐらいして高いのと 安っぽいのでコレクター魂は誘われない感じです。 なおバージンメガストアなどでは定期的に日本特集などをやっていたりします。 この時期はmangaエリアが拡大し、ついでにB.D.も拡大するという感じです。 そこで「漫画で学ぶ日本語」という日本で言うと「萌え単」に近い本を発見しました。 著作権に気を使い過ぎたのか、イラストも日本語の解説もほぼ同人レベルの酷い本でしたが 「俺」とか「だもん」といったマンガ言葉をとうとうと解説していました。しかも間違っている。 ※怖いもの見たさのお土産には良いかと思います。 B.D.は基本的にコレクター魂がついてまわるもので、中古市場などもしっかりあるようです。 いま滞在しているアヴィニョンは中世の都市で街自身が世界遺産ですが、 ショッピングエリアのかたすみに中古B.D.専門店があり、そのはす向かいに 日本マンガ、アニメ、プラモ、ゲーム専門店がありました、その名も「NEO TOKYO」。 有名な「蚤の市」では古書類に混ざってB.D.を扱う商人は必ず見つけられます。 中古DVDやゲームソフトを扱う商人もちらほらいますが、日本の漫画は見たことがありません。 カバーがやわらかい(日本と同じ)なのでぼろぼろになってしまうからではないでしょうか。 出版社的には欧州で5−6社が日本マンガの翻訳に携わっているようですが、 特にフランスには「KANAカンパニー」という人気の老舗があります。 創始者が手塚治虫氏に衝撃を受けてはじめた会社で、筋金入りの日本マンガ愛好者ですが、 良作や日本でアニメ化されるような少年漫画はここで訳されていることが多いです。 ちょうど最近、女子高校生の熱心なマンガファンに知り合えたので聞き込みしてみました。 マンガで一番すきなのは「ラブひな」で、なぜかといえば「日本のいろんな風景を見て回れるから」と。 えらく純粋です、しかも間違ってます。日本のお兄様読者層とは明らかに違います。 こういう子にはもっといろんな漫画を見てもらいたいように思います。 アニメでは宮崎作品がダントツの人気です。 これに関しては諸説ありますが30-40歳の世代はかなり宮崎作品で育ってますし、 その子供たちはいまだに1980年代の日本アニメで朝昼のTVアニメタイムを過ごしています。 「殺さない・戦わない・風景が欧州」というのがフランスでの社会理解を得るポイントと思われます。 なお大学生にしても上記の女子高生にしても、 基本的に日本語には興味があるけれど、 日本語勉強してまでmangaを読もうとは思ってないです。 訳も日→仏ではなく日→英→仏となっていることがあるのですが、 あまり疑問を抱かずに普通に感動しています。 「もののけ姫」の舞台は昔の日本だと思っていたようですし、 物語のクライマックスで「日本版はアシタカが愛の告白をしない」というのも知りません。 この辺は映画「ラストサムライ」が日本のドキュメンタリー映画だと思われていたりするのと同じ感じです。 配給されてくるものを否定してみたり、斜めから解説するような解説者が居ないのでは無いでしょうか。 この手の学生に聞いてみたところKITANOとMIYAZAKI以外の日本の監督の名前は出てきませんでした。 そういう意味では、日本ブーム(ジャポニズム)は本質だけが理解されずに モードとして数年ごとに繰り返しているようにも見えないこともないです。 この辺の「オタク度」の基底ベクトルが日本のそれと大きく違うところで、 日本のオタクは声優とかシナリオ、スタジオとかキャラデザとかにすぐに目が行ってしまうし、 同人誌やコスプレのように原作者の意思を無視して 二次的に何かを創造してしまうこともあるわけなんですが、 そういうプラスの模倣はあまり見受けられません。その前にアートに走ってしまう。 絵のうまい子はやはりB.D.派が多く、manga派の模倣はいまいちぱっとしてないです。 筋金入りのmangaファンはさっさと日本に渡ってしまうからかもしれませんが。 でも、Tシャツなどの衣類デザインの世界には明らかにmanga派が大量に生息していて、 謎の日本語や目玉の大きい女の子のデザインされた「日本人にとって恥ずかしい服」を 天使みたいな女の子が普通に恥ずかしげも無く着ていたりするのが逆に怖いです。 この手のデザインはどんどん洗練されてきていて、シンボルとしての「manga」は、 ディズニーの「mickey」(ミケイ、と発音)と同じように市民権を得ているように思います。 で、文化からマーケティングの話に戻りますが、 欧州、特にフランスでの日本マンガ市場の拡大を狙うなら 輸出する側(日本ですね)は輸出するコンテンツの系と出版方法を見直したほうが良いと思います。 この辺は欧州でのゲーム市場の不振にも関係がありますが、暴力と殺人と猥褻が強すぎます。 なんで少年漫画はいつもいつも戦っているのか、リアリティが無さ過ぎます。 フランスの小学校では「競争」はご法度という大前提がありますし、 多少のスパイスならともかく「天下一武闘会」ばかりやっているとTVで放送できません。 TV放送も日本での玩具メーカーとのタイアップに目が行き過ぎていて ストーリーをぶち壊しにしてまで24話つないだり、無意味に戦ったり、引き伸ばしたり… こちらでの放送は日曜の朝を除いて、常に単発放送なので1話完結しているのが大前提です。 近年では「明日のナージャ」が例外的に受けてますが、残念ながら逆に、 人気を支える玩具やキャラクター衣料品が無いためチャンスロスをしています。 ※ナージャはストーリー的には問題が多いのですが、舞台が地元なので親近感が沸きます。  また人物の細かい顔の特徴なども、意外とよく出来てます。  日本では一部のお兄さんにしか受けませんでした。 日本の玩具メーカーはTOMYしか見ることが出来ません。 キャラクターマーチャンダイジングの大手であるバンダイはライセンス販売で、 しかも地上波放送とタイアップがしっかり出来ている例はまずないです。 「STARWARS クローン大戦」が映画公開のタイミング的にも完璧なタイアップを成し遂げたのに、 なぜ日本のコンテンツが食い込めないのでしょうか。 翻訳リソースやプロデュース力なども大いに関係あると思いますが、 「ストーリーと冒険」の要素がちょっと乏しいのも原因かもしれません。 そういう意味では「ワンピース」と「金色のガッシュ」はいい線行ってるとけどちょっと格闘が多すぎ。 「ケロロ軍曹」は誰も死にませんし、実は受けるかもしれません。 「とっとこハム太郎」は人気です。名前と生活が日本的過ぎるのと 主人公が「アムタロ」になってしまうのが痛いところですが(Hは発音しない)。 エンディングテーマなどもちゃんとフランス語版になってる秀作です。 だからといって巷でハムスター飼育が流行ったりしないところを見ると仕掛け側の仕込が足りません。 結局のところ、英語(米国)圏にばかり目が行ってて、 欧州の文化や商習慣を考慮したマーケティングをきちんとやって居ないということなのでしょうかねえ。 一時の流行に任せて手を抜いている、というのも原因かもしれませんね。 日仏の翻訳コストについては決して高くは無いと思うのですが、 (フランス語に訳すと仏語圏、特にアフリカにも輸出できますし) プロデュース側にフランス文化と日→仏語が判るひとが少ないというのも問題かも。 仮に日本語堪能なフランス人が居たとしても、 「フランス人が理解できる新しい日本マンガ」を見つけられるか、というのは 実際のところは難しいかもしれないですね。 「味のあるマンガ」よりも「日本で人気のあるマンガ」が先に翻訳される状況では、 なかなか新しい価値観、マーケットは開拓できません。 英国のゲーム会社に勤めていたときにも似たようなジレンマを味わったことがあります。 ある大会社で「欧州ではスポーツゲームしか売れない」とプロデューサが呟いてましたが、 英国のオフィスで一番人気だったのは「温泉卓球」という、 これまた「一見日本でしか売れなさそう」なタイトルでした。 こんなスポーツゲームは欧州では 絶対作れない んですけどねえ。 さて、そこで「フランスの(潜在的な)マンガ市場」を発掘する 具体的な方法はいくつかあると思いますので勢いに任せて列挙してみます。 ※実際に事業化したい人が居たらご連絡くださいな。 ■画力がしっかりしていてB.D.向きのマンガをB.D.版で再版する  「ガンム」「ジョジョの奇妙な冒険」「バガボンド」など…  すでに単行本でも人気ですが、カラー原稿を日本よりいい画質で再版するのが良いと思います。  例えば「風の谷のナウシカ」原作版はもとからB4ですし、大人の宮崎ファンにヒットすると思われます。  米国のマンガは普通にB.D.で売られている事を考えると、まずはB.D.フォーマットを見直してもいいと思います。  B.D.フォーマットはページ数に対して単価が非常に高いですし。  日本でも逆輸入して買いたいという人が出てくるかもしれない。 ■言語や文化に依存しない4コマ、エッセイマンガを輸出する  「sudoku」のヒットなどを見ると、新聞やフリーペーパーの一角を飾るような  「気の利いたひまつぶし」というのはまだまだ市場開発の余地があるように思います。  たとえば竹書房さんなどで出している4コマ誌のなかで、文化や言語に依存しない4コマや  動物、エッセイマンガなどを翻訳コスト低く輸出してみるというのはどうでしょう?  具体的には「ぼのぼの」とか「ゆず」とかのテイストは理解されるよう思います。  (「ゆず」は4コマじゃないですが、ああいう日本描写は意外性があって受けます)  そういう意味では「ちびまる子ちゃん」などは国によってはベストセラーになっています。  とにかく暴力以外でmangaが市民権、社会理解を得るのが大事だと思います。 ■フランスのB.D.を翻訳して日本で流行らせる  「全米大ヒット」じゃありませんが「フランス産で日本で有名」とかいうとフランス人はえらく驚きます。  ミシュランを例に挙げるまでも無く「フランスで人気の」というのも日本でもモノによってはインパクトありますし。  例えばすかいらーくグループで売ってる「クレームダンジュ」は近所の大都市Angersの地味なデザートで、  地元フランス・アンジェ人ですら知らない人が多いのですが、日本ではロングセラー・ヒット商品です。  日本にもB.D.を専門に扱う書店はいくつかありますが、やはり美しい訳をしっかりした上で  「買い集めたくなるようなB.D.市場」を日本で流行らすというのも利益が大きい仕事かもしれない。  日本の漫画家にも影響は大きいと思いますが。 ■コミケを輸出する  フランスにもオタクな集まりは無いことはないと思うのですが(むしろカルトと呼ばれるかも)、  幕張やサンディエゴのような「大規模なオタクの祭典(マーケット)」はないです。  ただB.D.のFete(祭り)は、それこそ年に何度もあるのでそこを拠点に拡大していくことは出来るとは思います。  ですが、うちの街を例に取ると、街が普通に中世の景色なので、  「日本マンガ的ファンタジー」のコスプレとかしてても、何の祭りだかわからないかもしれないです。  例えば「鋼の錬金術師」のコスプレをしても、ハロウィンのお祭りとあまり変わらないような。  明るいフランスの女子中学生あたりを巻き込めれば将来のマーケットを築いてくれるかもしれないんですが、  日本の女子中学生のような「やおい」に十代から目覚める子はそれこそド変態です。  むしろ現代少女漫画のメインストリームのほうが、フランス人には受けるように思います。  「紅茶王子」とかは若干人気みたいです。 ■マンガ喫茶を輸出する  これは強力な企画です。B.D.・マンガ・ゲーム好きの誰に話しても  「すばらしい日本、夢の国だ!」と大絶賛されるのが日本の「マンガ喫茶」です。  カフェで一日、マンガを何十冊も読破したい…!  買って集めているB.D.がアパートの床を抜きそうだ…!という層から入門層まで。  インターネットカフェ(シバ・エスパス)は日本より流行ってますから、  地付けと面積さえ問題なければマンガとゲームとネットだけで客足は途絶えないかも。  ただし、値段とコーヒーの質だけは気を使ったほうが良いと思います。  またパリのような大都会ではなく、娯楽の少ない学生の街(アンジェとか…)がねらい目でしょう。 以上まとめてみました。長くてすみません。 この手の話題についてはこれからも継続調査して行こうと思います。