先週末日曜日は雨だったが、実はフランスにとっては 未来を占う重要な日であった。 「EU憲法批准国民投票」というもので、実はパリに行ったころから気にはなっていたんだが、 選挙の前に選挙権もない人間があれこれ書くのも性に合わないのでノーコメントであったが、 media@Francophone さんのBlogで結果について詳細な解説がなされているのでまずは引用したい。 http://blog.livedoor.jp/media_francophonie/archives/23659350.html 結果は「NON」つまりEU憲法には従わない、というのが国民の選択。 (ちなみに私自身は国際社会に生きる身としては「OUI」であるのでショックな結果だった) 以下、出口調査のデータを自分なりに読んでみたいと思う。 まず投票率70.5%これは日本ではありえない高さだろう。 全体では45:55であり、確定票もほぼ同比率。 しかし年齢別では大きな差があることが分かる。 働きざかりの35-59歳の層では圧倒的にNONなのに対し、 60歳以降では完全に逆転してOUIが優勢になっている。 また職業別では「自由業・管理職」のみがOUIであり、他はNON。 特に会社員と工場労働者のNONは79%と高い比率である。 社会的地位別も興味深い。 学生と年金生活者が若干OUIの傾向があるが、 失業者では71%がNONである。 失業者はEU化によって職を奪われたのであり、 フランスの政治や労働環境が問題であるという 視点ではないことが興味深い。 このことは「学歴別」で高学歴になるに従い OUIが増えていく美しい比例をみると明らかである。 また世帯月収別では3000Euro以上で圧倒的にOUIが強くなる。 十分なデータを持っていないので推測の範囲を出ない上に、 以下、至極あたりまえの私見を述べるが、 今回の選挙の結果は労働者層の勝利であり、 その5割強をしめる「中の下の労働者」は、 「EUにOUI」ということによるポジティブな未来よりも、 「現在の生活不満を生んだフランス政府にNON」という ネガティブな愚痴が勝ってしまったということである。 しかも投票率7割という高さで。 高学歴層や管理職層は既にフランスの国際競争力の低下を 辛らつに味わっているし、EU化による一抹の希望を見出しているはずである。 この国際競争力という視点は居住区別のパリ内かパリ以外かによって 傾向が違うという点にも現れているといえるだろう。 ちなみに、EU化によって東欧からの安い労働力が流れてくるから、 という問題は本当だろうか?たしかに農作物はより安い労働力の近隣国から 流れてくるだろう。しかしEuroによってそれは長期的に見れば物流コストになり、 最終的には、やはり農業向きの国土が広いフランスが有利である。 また地方都市については、私的な視点を述べれば、 私の住んでいる西フランスはそれほど人口流入が激しいわけではないし、 東欧人よりもむしろイギリス人リタイヤ家族のほうが引っ越してくるぐらいだ。 工場労働者についてはたしかに安くて優秀な労働力が、 中途半端な能力のフランス人を駆逐する可能性もあるだろう。 また東欧に工場が移転することもあるだろう。 しかし本当に優秀で収益をのぞむ出稼ぎ外国人はドイツに行くだろうし、 工場の移転は日本→中国の技術流出を見れば、大きなリスクである。 フランス人はいまさら安く物を作る努力をするぐらいなら、 品質がよくてかっこよくて美味しい物を、楽しく作ることに精を出すべきだ。 週35時間労働の撤廃だとかは目先の問題でしかない。 日本でも「会社支えているのは2割の社員」というが、 フランスでも能力があって真面目な人ほど遅くまで働いた上に、 ちゃんと家族も大事にしている。 そういう人たちはお金を愛しているんじゃなくて、 フランスが好きだからフランスで暮らしているのである。 (でなければドイツや米英に行くよ、と) このへんでも言われていることであるが、 http://d.hatena.ne.jp/dpi/20050530/p1 結局のところ、今回の選挙でNONと言っている労働者の多くは、 自体の本質が飲み込めていないのではないだろうか。 実際に工場労働者を圧迫しているのは、労働者の流入よりも、 フランス工業製品の国際競争力の低下であるということの認識があるのだろうか? EUとして日米中に対するパワーバランスを保っていかなければ、 すぐに足元をすくわれ、EUの分裂と更なる国際競争力の低下を招くことに 気がついていないのだろうか?(…いないだろうなあ…) これでシラク政権も寿命を縮めてしまったといえるし、 EU憲法をいくら改正したとしても、国民投票をやる限りは EUの思想がいかに崇高でも、愚民政治にぶち壊されるだけである。 こちらのBlogが単純ではあるがいいたとえをしていらっしゃいます。 http://france.blogtribe.org/entry-9b0e83d3f4f71b57b4619aa73297f0f0.html ちなみに明日はオランダでも同様なEU憲法批准選挙が行われる。 どうもフランスの結果を受けてか反対派が優勢になっているらしい。 http://www.cnn.co.jp/world/CNN200505310021.html 聡明なオランダ人の皆さんが、この流れを止めてくれることを祈る。 (…が無理だろうなあ…) 「フランスの憂鬱」にため息をつかざるを得ない選挙結果であった。