「モンスターズ・ユニバーシティ」は勉強頑張りたい人に見せたい映画

——夢は大学にあるだろうか。

Disney/Pixarの最新作「モンスターズ・ユニバーシティ」は、この夏、そんなことを考える人にこそ見せたい映画。

Anaheimで開催されたSIGGRAPH2013の開催中、夜の時間が少しだけあったので、22時台の上映をDesney Downtown内のAMCという映画館で観ました(観たのは英語版ですので、日本語版とはすこし印象が違うかもしれません)。

以下、思った事を書いておきます。

すこしネタバレも含まれるかもしれませんが、シナリオ的には事前知識レベルですのでご安心を。

■ 「いいやつ」とは言いがたいサリー

前作「Monsters Inc.」では、サリーは「とってもいいやつ」というキャラ作り。その後のキャラクターグッズ展開や、女性受けなどを考えても、サリーは「もっさりとしたいいやつ」というキャラ作りであったと思う。そして、主人公はマイクとサリーのどちらか、というよりは、どちらも主人公という作り。
しかし今回の主役は明確にマイク。さらに、サリーは「悪役なの?」と思うぐらいの「いやなやつ」のキャラクターデザイン。CG技術的にはヤングサリーは500万本の毛が生えていて、旧作では200万本という違いはあるけれど、そんな絵的な違いよりも、ぐうたらで、意地悪で、自信過剰で、大学の講義を何とも思っていないというタイプ。実際にこういう大学1年生っているのだけれども、サリーは「怖がらせ屋」の名門サリバン家の御曹司という位置づけも入っている。
これはSIGGRAPHのセッションでも語られていたところで、教室での搭乗シーン『Yeah, He’s my dad.』というセリフひとつとっても『ああ(自分はこの話をするのは大好きなんだけれども、それを見透かされないように一拍おいて)、彼は僕の父だよ』と作り込む念のいりよう。
ディスニーアニメーションのつくりでは、いちど「いいやつ」になったキャラクターをここまで「いやなやつ」に壊す方法はなかなか採らない。それこそ主人公のライバルキャラぐらいでしかおきないこと。でも今回のPixarはサリーというキャラクターを壊しに壊した感じがある。それは勇気あるキャラクターデザインで、エピローグから前作「Monsters Inc.」につながるところまでの発展に、人間としての深みを加えている。また、観ている若い子どもたち、特にハイティーンにとっても「ああ、あの”いい子ちゃん”のサリーも、実は若い頃はこんな生意気だったんだ……しかも……かっこわるい!」と思い直すチャンスを与えるものだと思います。

■「勉強する」とはこういうこと

本作のタイトルとなっている「University」は、日本では「大学」という。大学を意味する英語にはCollegeもあるけれど、モンスター・カレッジではなく、歴史ある名門大学、という位置づけ。おそらく大学院もある。DoorLabという「例のドア」を研究開発するラボもある。その格式と自由な学生文化は随所で描写されていて見事。
大学でのマイクは、本当に大学時代を謳歌している。新入生歓迎の勧誘、学寮、講義にイベント。そういった「テーマパークとしての大学」は描きつつも(ディズニーランド内に作るには面白そうなテーマパークだけれど)、マイクはがむしゃらに勉強する。
いわゆる「ガリ勉君」なのだけれども、我武者ら、という表現が似合っている。折れそうなぐらいの腕で、両脇いっぱいに抱えた図書館から借りた本、という姿はその典型。「勉強する」とはこういう事なんだ、ということをエンターテイメント映画で教えるのは本当にまれな事だけれど、いまの受験生・大学生・大学院生に、この必至さを感じていただきたい。レポートだろうが就活だろうが、我武者らかどうか。
マイクは元々、どんな事があっても自然にポジティブに物事を考えられる才能の持ち主なので、周囲で陰湿ないじめのような行為があっても、眉一つ動かさず(眉なんてもとからないけど)、乗り越えられる。今回はサリーがライバルになっていて、天性のサラブレッドであるサリーを中間テストの成績でガンガン追い抜いていくし、周囲、先生からも「You’re not scared(きみはこわくない)」と言われ続けても、その勢いは変わらない。むしろサリーがいたから頑張れたのかもしれない。この辺の描写は島本和彦の「アオイホノオ」などにも通じるところがある。

■「夢を実現する」には何が必要か

大学の講義において、天性のサラブレッドの化けの皮がはがれるのには、半年は必要ない。数ヶ月で十分だ。これは実際の大学でも同じ。また一方で、マイクのようにどんなに努力しても「無理なものは無理」という冷たい評価も世の中ではよく起きる事だ。でも、そのときそのときで、一生懸命勉強する事は、何も無駄にはならない。『大学の講義なんてそんなもんか』と思うのは、浅はかだ。

作中で、マイクは後半、トレーナーであり、マネージャーとなって、誰がどう見ても駄目な個性派チーム「OK」を引っ張っていく事になる。本当に優秀な学生というのは、教室で先生に褒められる学生ではない。同じ世代の学生に、同じ世代のやる気の無い仲間たちを、教えたり、心のスイッチを押していくことができる学生なのだ。
例えば、危険を冒してScare Roomに見学に行くエピソードは、さらっと観てしまうとただのアクションシーンでしかないのだけれど、マイクはチームの士気を高め、共通の出発点である「少年の頃の夢」を思い起こさせている。これは高度なマネジメントテクニックだ。
このように「夢を実現する」ということに一歩一歩、丁寧に、我武者らに突き進んでいく若者は「どうやったら、心に火がつくか」という事についてもよく知っている。例えばこれが軍隊であれば、士官を一人養成したほうが、素人に銃を持たせて歩くよりも、よっぽど安全で、効率よく働く事ができる。企業であっても同じで、単なる単一のスキルに秀でた人間を採用しているようでいて、実際には「周囲を動かす能力」をグループディスカッションなどで見抜いていたりする。これは雰囲気作りや協調性も大事ではあるが、そもそも自分自身が人知れずとも、そこはかとない努力と積み上げを行っている事が大事なのだ。チームのメンバーから尊敬され、お互いを尊敬しなければ、大きな夢を実現する事なんて、できやしないのだ。その夢がたくさんの人のチカラを借りなければできないことなら、なおさらである。

■「尊敬できない、いやなやつ」から「かけがえの無いパートナー」へ

当初のヤングサリーのように「尊敬できない、いやなやつ」という若者は、そこら中にいるものである。彼らはキミの事を尊敬したりはしない。だからこそ、その彼を無視するでも無く、まずは、君自身がひたすらがむしゃらに、自分がすべき事を頑張れば良い。学校の成績のように、自分たち以外の評価でその学生の価値を評価してくれる事もあるし、友達の友達が、それを表現してくれる事もあるだろう。それまでは、本当に本当に、頑張った方が良い。SABCの評価であれば、BでもAでもなく、Sを狙ってほしいものだ。
またサリーやマイクのように、「かけがえのないパートナー」なんてものは、実際にはよっぽど運が良くなければ出会えるものではない。それこそバスを素手で止めるような勇気がなければ、この話も単なる「つまらない思い出話」で終わっていたかもしれない。
若者は、相手が同性であろうとも、異性であろうとも「かけがえのないパートナー」を得ようと思ったら、そのような清水の舞台は飛び降りる必要があるということを知っておいた方がいいだろう。この映画はマイクが主人公なので、そんな描き方はしていないけれど、自分がどちらの立場であったとしても「一緒に働く」ということは、それぐらいの揺さぶりと嫌悪から共感への転換が必要なのだ。職場にいるどんなスタッフだって、一度は嫌いになって良い。そのかわり、自分がその相手を許し、認めあうためのきっかけを作る事だ。もし、嫌いのままでいられるとすれば、それはキミがとても幼い、という事なのかもしれない。

余談ではあるかもしれないけど、「Pixarに行ってアニメーション作家やそれを支えるエンジニアになりたい」、という学生は結構いると思う。でも「キミは向いてない」と言われ続けても、努力し続ける勇気がキミにはあるだろうか?Pixarで働いている人は、天性の才能と、かけがえの無い努力が同居している人物が多い。物事を感覚だけで作るのではなく、理由とチャレンジと、慢心の無い丁寧さがあってこそ、1キャラクターあたり8ライティングも割当てたり、一つの脇役キャラクターに一人のアニメーターをつけたりできるのだ。我武者らに勉強した人たちでなければ、その理由はわからないかもしれない。

——夢は大学にあるだろうか。

答えは「ほぼNo」だと思う。もちろん、大学に受かることは夢になっても良いだろう。でも、大学には、若き才能たちが悩む事もたくさんある。その乗り越え方、つまり迷いを振り切るかのように、我武者らに勉強したものにのみ、見えてくる境地というものがある。

好きだとか嫌いだとか、生まれつきとか、かっこいいとか、普通はそうだ、とか、そんなこと、どうでも良くなる。チャラチャラした大学生なんて、何の本質でもないんだ。

そんなわけで「モンスターズ・ユニバーシティ」は、
「勉強頑張りたい」そんなキミにこそ、見てもらいたい映画。
上から目線ではなく、楽しく「頑張る事の意味」が感じられる。

勉強する事、大学に行く事の意味を子供にそっと教えたい親御さんにも、オススメです。

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