拝啓久美子様。 いま、フランス時間で19時、米国東部標準時で13時。 大西洋が終わって、ラブラドール海、カナダが見えてきたころです。 つまり無事飛行機には乗れました。非常に危ないところだったのですが。 まず携帯電話をCDGでなくしました。ごめんなさい。 チェックインカウンターが開くまでは確かに持っていましたし、なによりこれが時計代わりですからなくす筈がありません。 おそらくCDGターミナルFからターミナルEに移動する途中でなくしたものと思われます。 もしくは、席を立つ直前に現れた謎の身体障害者か。 言語障害だと思うんだけど、署名をしてくれというドキュメントには何も具体的なことは書いてないし、何語でしゃべっても怒ったように突っかかってくるので(女性)、ちょっと怖かった。でもそのときは携帯もってるか確認したはずなんだけど、足早に立ち去ったのがまずかった。 AFのチェックインカウンターEに行って 「オーバーブッキングで席がない、明日の出発にするならホテル代と食事代は出す、もしくは300Euro払ってくれればビジネスにする」と言われ、ちょっとパニクったのもよくなかった。その瞬間に携帯がないのに気がついたんだけど、迷わずチェックインに並んでいれば、チェックイン自体はごねたかもしれないけど終わったはず。 そこから家にとりあえず電話をして、遺失物センター(Lost&Found/objets trouves)のある場所(ターミナルBとEの間)まで行ってしまったのは間違いだったかもしれない。というかその辺の案内係に聞いたらそこに行けというから行ったのだけど、荷物を持ってちょっとやそっとではたどり着ける場所ではないし、すぐには見つからないし、当然ながらというか、やっぱりというか12-13時は昼休みだった(到着したのは12:10)。 「(人の親切を妄信的に)信頼すれば裏切られる」というパリのルールを忘れていた。やばい。 飛行機の出発は13:15。 普通に考えて出発1時間前だよ。チェックインしないと! 時計がないから正確な時間がわからなくて危ない。 あわててターミナルEまで戻る。 カウンターは閉じかかっていて…というか閉じていた。 言われたカウンターに行くと 見た目以上に気取った感じのAF地上係員A子は 気取った感じでパスポートを受け取り 気取った感じでキーボードを叩き、 その間ずっと目線はモニタに向かってる。おもむろに、 「アトランタ行きですか?」といわれる。 『ちがうよボストン!』 「もうチェックインは終わりました」 『そこをなんとか…』 どこかに電話する地上係員。つながらないらしく、その間も同僚と雑談。 そのうち電話も忘れて雑談に集中。 『今日行かないと学会に参加できないんだよ、お願い!』 思い出したように再度電話。キーボードを叩き始める。 『今日出発できる、よね?』 無言で頷く彼女。助かった…。 その後、滞在先の住所やら自宅の住所やらを聞かれ、 どうにか搭乗券を受け取り、この時点で推定12時30分。 搭乗券には12時30分搭乗開始と書いてあるので、可能であればゼロ分で出国管理とセキュリティを通過し飛行機の前にたどり着いて、家族に無事の電話を入れねばならない。 で出国ゲートにダッシュ…が。 そこはもうアメリカだった…。 というかまず人多すぎ、軽く300人ぐらいいると見た。列が長すぎて御土産物の前まで膨らんでいる有様。 出国ゲートのパスポートコントロールは5ブースぐらいあるのだけど、遅々として進んでいるようには見えないのは明らか。 いちおう係員に聞いてみるが「みんな並んでいるんだから並んでね」と言われる。 まあそうだよな、と香水屋の前に立つ。そのそばからどんどん人が増える。 みんなアメリカのパスポート、アメリカ行きの搭乗券、英語をしゃべる。 そうか、このターミナルは米国行きなのか!といまさら気がついた。 並んでいる黒人は明らかにフランス系ではない、白人もフランス人と明らかに見分けがつく人の比率がどんどん少なくなっていく。 イタリア系アメリカ人とか、簡単にひっくるめるとヒスパニックが最も多いように見える(見分けがつかないからそう見える)。 立ち話しているアメリカ英語はスカスカ聞こえてくる。準バックパッカーとおぼしき女性2人組、やたらとでかい青年、70過ぎと思しき老夫婦に囲まれる。 みんな便は違うけどアメリカ行き。13時20分発とか。どういうわけかこの時間帯は出発便が集中している(日本行きも13時15分とかだし)。 fuck, shitを形容詞に使わないと会話を構成できないらしい女性バックパッカーが、 「あたし係員に交渉してみるわ」と一人残して行ってくるが、やっぱり戻ってくる。 「一時間ぐらい遅れるだろうから大丈夫だって、さすがフランス」とか言っている。ほんとかよー。 みんな緊張している、係員が前を通るたびに、自分は?自分は?と優先権を主張する。 言わせてもらえば君らの出発よりも私の出発時刻は30分以上やばい。 私の前に並んでいる老夫婦のムッシュはフランス語もしゃべるようであるが、マダムのほうは明らかに疲れ気味。 普通に並んでいるだけなのに、図体と態度のでかい連中がゴツゴツぶつかって、気がつけば前に並ばれている。 見ててかわいそうだ。というか君らが前にいる限り、私もどんどん抜かされるのだけど、まあ仕方ない我慢だ。 軽く30分並んでやっと2/3までたどり着く。折り返した隣の列の黒人マダム(多分フランス語圏)によるとここから20分かかるらしい。 そんな言葉を聴いて周囲が落胆しているところに、係員が一人の乗客を名前指定で引っ張っていった。 騒然となる。「俺も!私も!」と列を崩して、ガイドを潜り抜けてショートカットする。 お、このサングラス黒人、その超え方はまずいでしょう?20分ぶんはこえたぞ、と思ってたら セキュリティl係員にフランス語で注意されてる。でもシカト。正面に回って英語で注意されてもシカト。 しまいにゃその奥さんと思しき黒人マダムも割り込み突撃してくる。 周囲が騒然となって後ろから派手にガイドを超えて割り込んでくる連中多数。その騒ぎに乗じて割り込んでくる連中も多数。 どうしてこの人たちはこんなに自己中なんだろう、という疑問もあるが、どうしてこいつらは子供がいるわけでもないのに機内にこんなに大量のトランクを持ち込みたがるんだろう? 私も背中にコンピュータ一式が入っているけど、そんなに持ち込んだらそもそも数量オーバーしている気もするし、セキュリティだって混むじゃんとか。 気を抜くと隣のメキシコ系アメリカ人が割り込んでくる。 『ちょいまち、君の搭乗券を見せてみ?ほらこれ私の。君のほうが30分は後だよ!』 そう、君たちに優先権はない、少なくともそれを主張する権利は私に対してはない! パスポートコントロールは笑顔でBonjour!とするりと抜けて、セキュリティへ。 長年金属探知機を鳴らさずに通過できない私であったが、靴が変わってからはスルーになった。 荷物も問題なし。携帯電話がないことをのぞけば・・・。 ちなみにこの時点で13時15分。 無事飛行機に乗れるのか…!? 以下次回(ってゆか冒頭で飛行機に乗れたって書いてますけどね)。