Robertはオーストリアの19歳だ。スポーツマンで少年と青年の間ぐらいの感じ、つまり青少年。 周りの人がどんなに「寒い寒い、冬がもうすぐだねえ」と言っていても 半そでで学校に来る、青少年ぶりだ。 ちなみに彼の名前は「ロベルト」と発音するのは英語読みで、 「ホーベール」もしくは「オーベール」と発音する。 週末だと言うことで学生同士で恒例のさよなら呑み会を開催することになっていたのだが、 どういうわけか女子部にすっぽかされる。待ち合わせ場所には誰もいない。 (なんとなくそんな予感はしていたんだが、これについてはまたの機会に) というわけで19歳と32歳、平均年齢25.5歳の二人があてもなくアヴィニョンの夜の街を歩く。 オーベールは非常に落ち着きがない。 落ち着きがないというと、なんだか性格の問題のように聞こえるかもしれないが、 彼の場合は筋肉が、若いエネルギーがほとばしっていて、落ち着きがないのだ。 立って待っている、ということができない。ついムズムズしてしまう。 落ち着いて考えることが出来ない。つい何かアクションをしてしまう。 そんなわけで、当初は私もさっさと帰ろうかと思っていた。 もとからそんなに体力に余裕があったわけではないし、今週去ってしまう学生らと ちょっと乾杯できればそれでいいや、という気持ちだったので。 「きっと聞き方がジェントルじゃなかったからだ」 『うーんどうかな、たしか全員彼氏つきだったし。てゆかジェントルって言ってもね』 「ジェントルマン、知らないの?」 『いや知ってるけど、ジェントルに女の子を誘う方法も学ぶべきだよ』 「…あなたの言ってることは全く理解できない…」 『まあバカロレアに通った後に学べばいいんだよ』 いいかげん、寒空にこんな寒い会話もどうかと思うので 『じゃあそこのアイリッシュパブでどう?』とオーベールに聞いてみる 「いいね、でももうちょっと見て歩いてから」 アイリッシュパブはロックが轟音でかかっていたので、まったりくつろぎたい自分としては若干趣向が違うようにも思ったので、しかたなく街歩きに付き合うことにする。 『オーストリアではどんな呑み方をするの?』 「うーん、だいたい深夜0時に集まって、朝まで」 『えーそれって集まる時間からして遅すぎ、毎週?』 「いや、月に一回ぐらい」 彼の英語はテレ屋さんなこともあって非常に聞きづらいが、まあこれぐらいの会話は普通にかわせる。 教皇庁の前を通って、自分たちの宿泊の近くまで来る。 ああ、あそこの店は思ったとおりいい感じのまったりぐあいだなあ、あそこに行きたいなあ…と思っていると。 「このあたりにDiscoteqheがあったと思ったんだけど…」 『ディスコテックねえ…先週の連中が入り浸ってたな…たぶんそこの店だよ』 「行こう、行きたい、僕はディスコテックで朝まで踊りたい!」 『私はそんな体力ないなあ…』 ディスコ入り口到着。英語がいっぱい書いてある。 黒い扉がバン!と開き、巨大な黒人黒服現る。 黒服「Bonsoir」 オーベール「あ、うう」 黒服、上から下までジロっとみて 黒服「Desoree」 扉、バタンと閉まる。 …オーベール、立ちすくむ。 「何あれ、何ていったの??」 『すまないね』って。 「いやまあそれはわかるけど、どうして?」 『いや、若くて入場資格を満たしてないと思ったんじゃない?』 「ええ、何も言ってないのに!19歳だから酒も飲めるし!」 ※20歳にならないと酒もタバコも飲めないのは日本とアメリカぐらい。欧州では16-18歳、もしくは法律無し。 『ああいうときはね、”Bonsoir!”って言って、バチっとウィンクすればいいんだよ』 「きっと僕が外人だから駄目だったんだ、そうに違いない」 『いや、そこまで見分けてはいないと思うけど…』 「日本だって同じでしょう?外人だとディスコテックに入れない」 どうかな~、東京(六本木とかね)だと外人しか入れないようなところもあるが…と思ったが、話がこじれるので 『そこの学生向けのパブにしておこうよ、彼女らもそこにいるかもしれない』 「狭すぎるからいやだ、最初のアイリッシュにしよう」 『えーだってまた駅前に戻るの?遠いよ』 「大丈夫、3分でつく」 どこの時計で3分だ!? 『ところでジェントルマンというのはディスコで踊り明かしたりするのかね』 「アイリッシュパブには外の席もあったし」 『わかったわかった』 というわけで振り出しに戻ってみる。若すぎる。 店内の音楽はモードが変わっていて若干入りやすい雰囲気。 客層に特に危険な感じもない。 というかDJがいるアイリッシュパブってどうよ、みたいな。 ギネスをパイントで頼んでまったりしてみる。 店の中の置物はケルト十字や全身甲冑、古式のタイプライターなど突っ込みどころ満載のアヴィニョン式なアイリッシュパブ。まあ酒も普通にうまいし、問題はない。 「DJが下手すぎる、俺の友達のほうが上手い」 (ここは英語なので俺/僕の違いはないが、なんとなくそう訳してみた) 『まあ雰囲気が読めないDJというのは概して下手だな』 「俺の街のDJ最高」 『オステリ語でやってもらえばいいんだよ』 なんてくだらない話をしながら、2杯目のフォスターはいい加減うるさいので外で飲む。 考えてみればオーストリア人の知人というのは今までもったことがなかった。 母国語のほかに英語、ドイツ語とフランス語が出来なければならない。 昼飯は7ユーロほど、これはちょっと高いかもしれない。 ここだけの話だが、ドイツ人は嫌いだと言う。 しかしフランスの車は最低、車はドイツBMWかHyundaiが最高だという。 日本でHyundaiなんて多分ロールスロイスよりも台数少ないと思うんだが、オーストリアでは人気らしい。 冬はアルプスでスキー、夏はMTBでガシガシ山を登っていくのが彼のスポーツらしい。 母親は会社員、父親はフローリスト。兄弟の一番上らしい。 『そうだとおもったよ、いい兄ちゃんに見える』 と言ったら赤面して照れていたが嬉しそうだった。 来年のアルスの時期には是非行くからよろしくね、と言っておいた。 その頃にはちゃんと大学生になってるといいんだが。 おとなしく0時過ぎには帰宅して寝る。