2016卒就活戦線が泥沼化している。
ことIT関連の採用担当者が「採れない…」と溜息をつく一方、学生の方は相変わらず「内定デナイ…」と言っている。 実は、学生側の溜息は例年とあまり変わることがない。なんだかんだと言っても、指導もしっかり行き届いて、卒研のテーマも決まり、戦略もって幅広く受けている学生であれば、7月も中旬になると、多くの学生が内定ゲットし始める。教員はここで教員ならではの「今年の就活戦線のフロントライン」を感じることができる。 今年の就活戦線の特徴において、学生側の特徴といえば「自己評価が低めの学生が多い」ように思う。この年代の学生に就活開始頃「どんなキャリアを歩みたいか?」という質問をすると、夢は見ない、非常に無難で堅実なアウトプットが出てくる。大震災の年に入学した2015年3月卒就活戦線は「入学式のお流れ」から大学生活が始まっており、今から思えばサバイバル精神に溢れた学生が多かったように思う。それに比べ、進路である大学の学科選択には比較的慎重になったペルソナが多い年でもある。 ただでさえ、「生まれてからこの方、日本が右下がりに縮小する世界しか見たことがない」という近年の学生が、「大きく挑戦」するよりも「無難で堅実な選択肢」を選んだ割に、就職活動の段になって「アベノミクスでV字回復」なのである。自己評価や自己効力感(自分の人生に自分の努力がどれだけ寄与できるか)は低くても、仕方ない。 もちろん、そんな就活戦線でもシッカリ内定ゲットしてくる実力ある学生はいる。その合格ラインとスペックと割合を見れば、どんな戦線なのかはだいたい見えてくる。 (あくまで自分の周囲や他大学、自分のTwitterTL等での観測なので、統計ではないが、数百人規模の状況 x 数十社の採用試験 x 毎年の事なのでデータを見た感覚と結果とはゆるい相関がある) この時期内定ゲットしている人の特徴 ・わかりやすい ・自助努力タイプ ・爽やか/美形 ・運動部/体育会系/スポーツ系サークル こんな感じのペルソナで「実際に行きそうな会社」から若干スペック落としたところを業種広く満遍なく受けている学生が結果を出しており、合格率はだいたい10人に1-2名といったところ。 ここには、就職協定を守っている8月1日以降の大手企業の”結果待ち戦線”は含まれていない。一部の学生が夢見ているような「8月1-3日に大手企業から新規の説明会情報が出るかもしれない」という観測は「妄想」にしか過ぎず、ほとんどの大手企業が会社説明会の形で予備審査を済ませているというのが現状かもしれない。 実際、今年の学生のスペックは上記のマインドを除いてあまり変わらず「ノンビリ」である。大震災以降…いや以前から、生まれてからこの方、エコロジーモードで動いてきたので、何があっても「ノンビリ」なのだから変わらないだろう。オジサンたちがそれに血圧を上げるどうかだけの事である。 視線を学生から企業に向けると、戦線の形成から状況が見えてくる。 まずは採用担当者が早めに方針転換して「和平交渉」と「ゲリラ戦略」を採った企業は比較的善戦しているように思う。具体的にはOBを連れたり卒業生の近況をもって、丁寧に大学周り、研究室まわりをした会社。採用担当者が学生や教員が見える距離にアプローチして学内選考や学内説明会、大学開催の合同企業説明会などに数回アプローチしている例は結果や結果予備軍を多く抱えており、今後の戦況を握っている。 一方で、大規模広告・大規模採用はもうダメかもしれない。絨毯爆撃方式は採用担当者ではない企業側すら既に懐疑的である。クラスタ攻撃も難しい。ハッカソンやワンデーセミナーに出てくる学生は、玉石混合で一本釣りしようにも、釣ったはいいが「スペック高過ぎ自意識高すぎ」で内定受諾には至らない。一方で、「大企業っぽいから受けておこう」ぐらいの縁しかない有名大学の学生は、業界研究も企業研究も、卒業研究も浅く、かつプログラミングスキルなども微妙。 そんなわけでやっぱり企業側も「10人にひとりふたり」ぐらいしか内定が出せていない。例年に比べて「お眼鏡が高すぎる」訳ではないのに「何故こんなに採用が進まないんだろう?早く始めたはずなのに!」と首を傾げている担当者もいるようである。 なお、今これを書いているのは、可哀想な学生と企業の採用担当者を救うためである。それぐらい異常な「泥沼」が今年の就活戦線にはあるし、今後もっと泥沼は深くなるかもしれない。主に企業側において。
企業:プロモーションすればするほど上滑り
仮に、採用担当者さんがこのままの採用ペースで「1/10選考」を繰り返していくと、もうそろそろ「応募者総数」を増やすのは難しくなっている。「興味がある」というレベルの学生は既に受けているし、「知らなかったが受けてみた」という学生も既に受けて落とされている。 採用担当者側で残っている手段は、 ・一度落とした学生を再度選考する ・スピード選考を売りにする ・受け入れ側部署の閾値を下げてもらう ・採用予定数を減らす どれもリスクがあるが、企業側ではそろそろ検討され始めているようだ。 少なくとも、中小〜極小の小回りが効く、社長が採用プロセスを自分でやっているような会社は、早めに内定を出して、この戦線をゲリラ戦略で飛び回っている。泥沼の戦地に金の卵がたくさん無防備な状態で転がっている。
学生:初内定が出てからが真のスタート
自己評価が控え目な学生は、初内定が出てからが「真の就活スタート」になっている。 例えば、内定前は「内定もらえれば何でもいい」と言っていたが、いざ受かり始めると、給与や勤務地、業務内容や企業側のビジョン、成長戦略、自分の趣味とのマッチング、担当者の人格などが気になり始める。 比較対象、足し算でしか考えられない。 悪い事ではない、それが自我というものだ。 しかし不義だけは働いてはいけない。まずはすぐに内々定の御礼メールを書いて、せいぜい7月末〜8月第1週までに自分の職業人生において「最初の自我」を磨き、発揮しよう。内定受諾後の闇就活などはこの泥沼をさらに悪化させる。逆に、自分の進路として納得がいくような足掻きをするのは大事な事だ。
双方:「育てる視点」がキーワード?
結局のところ、買い手市場は終わってしまっている。 私の周りにいる学生は、スペックの高いのも低いのもいるが、総じてこのまま企業側の「10人にひとり」が続くと、未内定市場はさらに玉石混合となり、お盆中〜お盆明け戦線が大変な事になるだろうという事は予想できる。 内々定済学生も他の採用判断待ちの結果によって「就活戦線離脱!」を宣言するかどうかを決めるのであるから、学生も企業側もお互いの内定獲得状況はオープンにして、不要な学生は早めに「縁がなかった」とリリースしてあげないと、玉突き衝突が起きている。この泥沼には誰も勝ち組がいない。あるとすれば、ゲリラ戦略で金の卵を拾った判断の速い会社だろうか。 最後にヒントを述べておく。 内々定を貰った学生が内定受諾に応じるかは、その後の「不安」をどのように払拭して自我で会社を選べるかどうかにある。 ビジョンがない企業は不安に感じる。 何より、学生は未完成。 (それはいつの時代も変わらない) 「育てる気概」がない企業には明日がない。 (それはいつの時代も変わらない) 企業側採用担当者は、ご面倒ではありますが、研究室の指導教員などとも連携し、是非とも主体的に、本人が向き合えるよう、教育的な視点をとって頂ければと思います。 最後に、上から視点で長々書いてしまってごめんなさい。 大学に関わる側としては、育てた人材が人財として御社を盛り上げていくことが大事です。 「いい就職」が、この国を変えていきます。 それは間違いありません。 ご意見などありましたら、Twitter@o_ob でお受けしたいと思います。 ありがとうございました。