参加報告メモ。 参加報告:日本VR学会・手ほどき研究委員会 第6回研究会 日時:2008年1月24日 手ほどき研究会9:50~18:10,手の巧みさ研究会10:40~18:10 場所:東京理科大学神楽坂キャンパス11号館11-6教室,11-7教室 この「手ほどき研究委員会」は日本VR学会の1研究会で「手」にかかわる、触 覚・ヒューマンインタフェースについて、最先端の研究成果をディスカッション する研究会である。今回はロボット学会「手の巧みさ」研究会との合同で開催さ れた。 以下、聴講した発表について ■VR空間構築用ライブラリARLの開発と物理シミュレーションエンジンODEの組込 (理科大) 三宅慧,佐々木佑哉,原田哲也 VR空間構築ライブラリARLと物理シミュレーションエンジンODEを組み合わせ、 触覚体験可能なインタラクティブなコンテンツ制作環境を開発した。 Phantomをつかったデモンストレーションゲームシステムをつくり、弓矢でおも ちゃを落とすようなデモを映像で紹介した。 デモはなかったが、バンプマップなどのピクセルシェーダーによるグラフィッ クスにおける細部表現を触覚と統合した点は評価できる。 ただしローポリゴンモデルとともに、詳細モデルをピクセルシェーダー手法で 表現する場合、触覚のクオリティはテクスチャ解像度の精細さに依存する。 実際のコンテンツ制作上は有効かもしれない。 ■ハプティックデバイスのためのクリック及びクラッチ機構(東工大) 馬場次郎,佐藤誠 取り下げ ■SPIDAR-Gを用いたデスクトップ作業における6自由度操作グリップの設計(東工大) 村山 淳,馬場次郎,佐藤誠 SPIDAR等の触覚インタフェースについて、「操作のしやすい作業」とは『グ リップの持っている特長に依存するのでは』という仮説に基づいた研究。 まずグリップ形状の検討、グリップを{球形、立方体、ペン型}と変更し、実験 タスクとして「3次元ドッキングタスク」(3次元形状をしたカーソルをターゲッ トに重ね合わせる)を与えた。 フィードバックは視覚のみ。被験者は日本人男性5名。SPIDAR-Gによる実験 で、球とペンでは明らかな差異があり、球体が有意(P<0.01)。 考察としては、ペン型は操作量(指の移動量)が増大するため、立方体は面に 方向性があるため操作しづらい、そのため球形が有利である。 次に、球体の大きさについても比較、直径={30,48,60,78mm}したところ、 48mmが最もよい結果を得られた。 結論として、3次元環境での操作は複合的な操作が多く、すばやく姿勢を変え られる「球形」かつ、その大きさには最適な大きさがある。 会場から「外骨格、リンク機構式ではどうか?」、「画面と実際を1対1で動か す場合に限定されるか?」という質問があった。 ■A spring mesh model in combination with torsional springs for simulation of soft objects(埼玉大ほか) Huynh Quang Huy Viet もと東工大・佐藤研究室ヴィエト先生による発表。 日本語タイトルは「合成マトリックスのノルム評価に基づく柔軟物体のシミュ レーションのためのバネ係数の推定方法の提案」となっているが、砕いて表現す れば、三角スプリングメッシュをつかったソフトボディシミュレーションにおい て、stiffness(触覚用語≒固さ)を求めるため、行列のnormを用いた方法を提案。 特に角におけるstrain(ねじれ)について注目。角に回転ばね(torsional spring) の考え方を用いているのが新しい。partical(辺と角)とcontinuus(フラグメント 全体)でも比較。6係数なのでリアルタイム計算可能とのこと。Future worksとし て外科手術シミュレーションにおいて、切断箇所の細分化時の高速かつ高精度な 再計算・シミュレーション方法への応用(Phantomを使ったデモ映像つき)。切 断時の触覚のリアリティなどへの応用も。 ■柔軟モデルに対応したマルチレート・ハプティックレンダリング(芝工大) 秦洋介,足立吉隆,寺田尚史,長坂学 臓器モデルを扱い手術シミュレーションのアルゴリズムにおいて、臓器の変形 と応力の計算をおこなう。一般的にはレスポンスをとればリアリズムを失うとい うトレードオフの関係にある。安定して力覚提示ができる力計算周期は1kHz以上 であり、臓器モデルの変形応力の計算は10KHzは必要となる。提案手法として、 計算周期が遅い場合でも利用できるよう、臓器に接触時のかん子位置の予測、応 力の補間、応力変化のスムージングを行うことを提案。 かん子位置の予測においてカオス理論に基づく非線形予測を行う。力学系、すな わち臓器に対して操作力を加えた時系列データを測定、再構成アトラクタを構成 する。予測後の応力の補間はB-Splineと不連続点のスムージングを処理する。 有効性の確認において、ばね定数2.5N/mのFEMをつかった臓器モデルを用い て、押し込み動作を行うシミュレーションを実施。非線形予測の準備として、計 算周期(10,30Hz)と押し込み速度が異なる4つのデータセットで確認。理想に対し て、計算周期が遅い場合は、提案手法において、遅れが大きく生じた(グリップ に振動が発生する)。実機による実験においても、臓器の計算周期30Hzでは理想 的な状態にほぼ近かったが10Hzでは振動が発生。考察として、予測周期として 10Hzを設定した場合、非線形予測において時系列データにない運動が予測できな いため、さまざまな運動の時系列データとアトラクタが必要になり、結果として 処理速度が落ちることになる。また補完力計算に用いたB-Splineが理想的な補間 を行えていない。 会場質問への返答として、30-10Hzはシビアな設定である、試した結果直線補 間よりもB-Splineのほうが感触がよかった、という補足あり。 ■位置決め制御を用いた力覚提示手法(芝工大ほか) 中山,足立吉隆,寺田尚史,長坂学 硬い物体のデジタルモックアップにおいて、従来の力制御を用いた物体操作手 法において、バーチャルカップリング(ダンパー)を用いる。ここで位置決め制 御を用いた物体操作方法を提案。非操作物体の目標位置の算出において、場合わ けを用いる。自由空間の移動、固定物体との干渉、においてシンプレックス法を 用いた目的関数を設定。平面2自由度・回転1自由度のアーム式ハプティックデバ イスを利用して実験。線形計画法を含む軌道計算ループは30Hz、位置ぎめ制御を 1kHzで駆動。 基本的に『強い・固い手応え』を必要とする用途には適している可能性がある が、提案手法においては点モデルなので回転において「めりこみ」が発生する可 能性がある。 ■設計段階における機構装置の操作感覚提示の研究(芝工大) 河野瑞樹,足立吉隆 CAD,CAM/CAEにおける機構解析において『操作感覚提示』を行えるようにす る。機構解析後、混合微分代数方程式(DAE)を用いてモデル化し、力センサと モータ、エンコーダによって構成される力覚提示装置、仮想機構装置を用いて実 現。検証に用いたモデルはカムとバネ付きシャフト(カム・フォロワ)。スライ ダークランク機構に運動学変換を行って実験。操作力を加えることで仮想機構内 に運動が発生、さらに引っ張られる感覚も表現できている。 会場質問に対する補足として、デバイスそのものの重力・慣性はDAEのM(質 量・慣性モーメント)に含まれているため問題ない、とのこと。ただし機構に よってはデバイスそのものの作り替えが必要であることも否定していない。 ■シミュレータによる歯石除去の訓練(青山学院大ほか) 橋本宣慶,加藤秀雄,松井恭平,石田洋子 歯科衛生士による歯石除去作業訓練に注目。現在は歯牙模型に塗料を塗ったも ので訓練する。カメラつきHMD,Phantomを用いて歯石除去シミュレータを構築。 実物と仮想物体の合成にはARToolkitを使用。ただし操作者の手指を合成するた めにビデオ画像の肌色検出をし、OpenGLのステンシルバッファを用いて合成。ス ケーラ(歯石除去のための鉤針)と歯石、歯肉の静・動摩擦係数、弾性係数、減 衰係数から歯面に対する接線法線方向力を算出、力覚として提示している。適正 な角度の設定、補足情報の表示を行っている。 評価として、歯科衛生士を目指す経験がない女子学生12名。技能レベルの測定は 歯科衛生士熟練者2名による7点3段階の主観評価を行った。 VAS(Visual Analog Scale)法を用いた各評価項目の重要度を測定し、主観評価に掛けた。結果とし て、従来の塗料を用いた方法では、ストローク、支点固定、把持方法において訓 練効果が得られているが、提案方法では全7項目において良好な技能レベルの向 上が確認できる。特に工具静止、工具角度、前腕回転、作業姿勢においてシミュ レータの有効性がみられた。 より客観定量的な評価手法との比較、患者の痛みといった視点での評価も可能 なので今後の展開が期待できる。 以下、パラレルセッションにつき聴講せず。 ◆ロボット学会「手の巧みさ」研究会(11-7教室) 一般講演(10:40~12:40) R-1.複合遊星ギアを用いた人工指の新機構 小金澤鋼一,石塚康孝 R-2.筋電位入力パワーアシストハンドの開発 安藤久人 R-3.人指腹部における空間解像度の検討 仲谷正史,川上直樹,舘日章 R-4.自分の手と他人の手: 片麻痺リハビリテーション支援機器の開発をめざして 喜多伸一,本郷由希,北村宣久,穐山早紀 以下、招待講演。 ■ヒトの精密把握能力の起源を探る:モデル解析によるアプローチ(京大) 荻原直道 人をほかの霊長類と区別する特徴は、「直立二足歩行」、「大脳化」、「言語 の獲得」、「道具の製作・使用」つまり利用できる資源を増大させ、多様な環境 に適応放散している。現在見つかっている最古の石器は260万年前(エチオピ ア)。最古の食肉の証拠は250万年前で、当時の食肉は死肉を食べていたといわれ ている。その頃の人類の進化は、食肉の効率化、石器の効率化、人間の大脳化と いう好循環があった。 手における把握能力は『power grip』と『precision grip』の二つが重要といわ れている。ヒトとチンパンジーの手では(解剖学的に)、特に把握能力について 派生的特徴により促進されたといえる。しかしヒトの手が本当に把握に対して機 能的なのか、解明はされていない。把握は 複雑な力学現象であるが、『把握シ ミュレーション』として手部筋骨格構造を再現することで解明できないか、とい うアプローチ。 運動指令→筋張力→関節トルク→指先 外観から構造を得る→関節面の近似→骨の構造 …といった流れで再構成する。 手法の限界として、運動を計算しているわけではない、(姿勢を変えて静的な 力の釣り合いを計算している)。手部筋骨格系の物理学的特性を完全にモデル化 できているわけではない、関節の稼動特性、皮膚の変形、etc。計測データとの 対応付け。神経系の拘束など。 ■触環境感覚と触身体感覚の心理物理 渡邊淳司(さきがけ/NTT) 触覚の心理物理実験をはじめとした感覚特性の研究、知覚特性錯覚に基づいた インタフェース技術、自己の知覚体験を外在化する作品を中心に研究。 「触感覚」をテーマに話す。触環境感覚と触身体感覚の2つがあると考える。 体性感覚はその中間という位置づけ。 視覚では簡単に確認できる残効現象が触運動覚ではなかなか観察できない、3 つのピンに仮現現象をかけてみる。順応がない場合、回答率は0.5。上向きの刺 激を与えると、上向きと答える回答が増える。 その他、メディアアート分野における成果なども紹介。 ■錯触を利用したインタフェース 安藤英由樹,雨宮智浩,前田太郎,渡邊淳司 環境から感覚が入り、感覚-運動変換し運動を返すという考え方をもって取り 組んでいる。感覚受容器からの情報が無意識的な処理過程を経て意識の中で感じ る…という流れ。 『錯覚インターフェース』とは錯覚の工学的応用。錯覚を調べることで、感覚 -運動変換の本質を抽出できる。実在する対象の真の性質とは異なる知覚をもち いて物理的制約を超える。 『SmartFinger』…爪の上から触覚を提示する装置。実環境に人工的な触覚を重 畳できる。実際に指が凹凸をなぞる(Active Touch)ときの様子を力センサで測定 したところ、新しい錯覚現象を発見。振動とタッチパネルでどの程度の触覚が生 成できるかに挑戦。凹凸以外の感覚は視覚の影響が強い、接触時にあわせた振動 はクリックした感じ、として安定して理解される。 『Embossed Touch Display』…任意幅が表示できるなぞり錯覚ディスプレイ。 なぞる指に併せて床を移動させる。心理物理実験も荒さもふくめて実施。どの相 対速度においても幅知覚は安定して生起する。荒さを変えた場合、荒さは変わっ て知覚されないようだ。 『ぶるなび』…”引っ張られ感”を表現できる錯覚インターフェース。 まとめとしては、振動を凹凸覚にする、幅をごまかす、引っ張ったような感 じ…が錯覚をうまく用いて表現できるようになった、という。地味な心理物理現 象をシステムにまで起こすフットワークを見習いたい。 ■ヒトの皮膚のように薄くて柔らかい圧力センサ 星野聖,森大祐(筑波大学) モチベーションとしては、ロボットハンドに見まねと試行錯誤で獲得させた い。書字動作、箸、ボタン穴通し、折り紙・・・。器用な機構、形状推定、圧力 センサ、制御側が必要。ロボットハンド、ビジョンについて過去の研究を紹介。 データグローブと爪検出によりデータベースを作成、素手で認識できるようにす る。爪と皮膚の違いは色空間の回転と楕円近似で検出。最新の成果として、膜を 使った画像方式の圧力センサを発表。2色のLEDの照射から力を推定する。フォー ス入力デバイスは似たものががあるが、精度、安定性含め、これからも熱い研究 分野と思われる。 久々に懐かしい面々にお会いできて楽しかったです! 昼食に行った親子丼の店もうまかったですし。