新作発表が無事終わり、アパートの撤去作業中です。 JAPAという日本のPOPカルチャー関係の研究会MLの話題を時々書きますが、今回 フランスでの「違法ダウンロード」という話題が挙がりました(豊永さん、問題 提起ありがとうございます)。 この先、なかなか忙しくて書く暇もなくなりそうですので、 書類を紙ごみにして捨てるべく、スキャナをがーがーかけながら、 ちょっと長い文章を書いてみました。 推敲してませんが、ポストしておきます。 ——————————————— 著作権や違法ダウンロードに関して、 日本人は中国方面の無法ぶりばかり腹を立てて注目しているようですが、 ラテン系民族の無法ぶりもものすごいものがあります。 というか、日本人が生真面目すぎるのかもしれません。 アングロサクソンだって、性悪説に基づいて法を作っているようですし、 この国では、盗む側は盗まれる側の事なんて、考えませんし、反省もしません。 新しいコンテンツメディアそのものを開発している側として、 結論めいたことをまず書かせていただくと、 まずは「市場を育てる努力」をしなければなりません。 そしてその先は「体験と教育」がキーワードになると思います。 「市場」という視点において、 日本のアニメがいくら人気だといっても、 ゼロ円/Euroで見ることを若いうちから習慣化している連中が相手です。 どんなにダンピングしても、ゼロ円には勝てない、 これはアニメ作品の大量・短期消費よりもたちが悪い現象です。 ハードディスクにダウンロードして、見たら消しているので、 DVD-Rを焼く手間やコストすら、払っていません。 「価値」という視点において、 DVDなどのソフトよりも、まずは「体験」を売らなければなりません。 ゲームやインタラクティブアートなどを生業にしていて、いつも感じることですが DVDはコピーできても「体験」はコピーできません。 あとはいかにして流通可搬性をあげるか、ですが インターネットの速度に市販DVDの流通速度が勝てないのですから、 既に私は物理的なイベント的なもののほうが、量はともかく質は上だと考えてい ます。 EuroJapanComicさんがやっている、JapanExpoなどもいい例でしょうか。 ただ、有名人を連れてくるだけでは、ダメだと思います。 現地の同人レベルが上がらないと、生産→消費の位置関係が変わりません。 ちなみに、フランスの家計では、年収の半額近くを家族のバカンス(=体験。休 憩ではない)に費やしても、教育費はほとんどゼロで見積もられています。 また携帯電話も通話(ほぼ無限)につかうものであって、メールのような高くて (1Euro/1通)遠回りなメディアは敬遠されるようです。 それ以外は、基本ドケチです。売る側も年に2回しか値引きしませんし。 ヤフオクではお金を払ってももらってくれないような中古品が、定価の半額ぐら いで売れてしまいます。 そういう経済であり、価値観です。 それから「教育」。 タバコ1箱に税込み1000円出している大学教員が、 ・映画一本のダウンロードに0.50Euro以下の値段しかつけられない。 ・学生のPCソフトコピー禁止を諭すどころか推進する ・とても貧乏な契約雇用者。 そんな状況です。 一般に、教員のような職業が貧乏だから、という視点もありますが、 既に「すばらしいコンテンツに対価を支払う」という考え方が、完全否定されて います。 (美術、ビジネス、役所関係は別です。彼らにはまだ対価を支払う習慣がある) 例えばPCプログラムで言えば、オープンソースを使いますが、コントリビュート しません。 優秀な人、お金に余裕がある人、良識がある人…のみが歯車を動かしている状態 です。 刹那に生きる、明日を考えない、学ぶことが嫌い、ただでもらえるならなんでも もらう… そういった若者は、学生や、日本で言うところのニートに近いポジションにいま すが、 そういうお兄さんたちが、”情報処理指導”と称して、小中学生にP2Pダウンロー ドやMOD(ゲームのプロテクトはずし)を教えています。 『世界のどこかの優秀な誰かが、僕たちのためにタダで使えるようにしてくれて いる、使わねば!』 …そういった理論です。開発はしません。 そんな環境で フランス・西ヨーロッパのコンテンツ市場で単に「物を売ること」ではなく、 「メディア教育の根底」や将来を「日本から、どうにかせねば!」と 考えている人がどれだけいるのかわかりませんが、 日本からフランスに行く人は、結構少数派です。 多くの日本人の予想から外れず、 私自身の感想としては、 「不可能ではないが、とてもきつかった」というところです。 すくなくとも一人では、限界がありました。 そして、あまり知られていない事ですが、 多くの日本人が「もてはやされている」と思っている 日本のコンテンツの味わい方も、ステレオタイプに満ちています。 大学卒ぐらいになると、日本人よりも日本の歴史に詳しかったり、 そこそこのリテラシーはありますが、それ以下の学歴では、 「スシ」といえば「寿司」ではなく「不安」というフランス語を浮かべるでしょ う。そんなレベルです。 それはともかく、 YouTubeで「フランス」というキーワードで探してみると、いかにフランスのメ ディアが一般人に「表面的な日本」を強化してしまっているか、よくわかります。 記者などのメディアのキーパーソンが、既にステレオタイプに満ちていて、さら に彼らが先入観だけで、いい加減な英語や通訳を介して、聞きやすそうな日本人 にばかり質問しているのが問題なのだと考えています。 なお旅行代理店にいけば、中国やモロッコ旅行はありますが、日本はほぼ、ゼロ です。 一部のマニアックな仏教信者がツアーを組んでいたりはしますが…。 基本的には「すごく遠い国」だと思われています。 飛行機の値段も、それほど高くはないのに。 メディアのステレオタイプに話を戻せば、 結果、多くの場合において、 「日本は過当な競争社会、最適化されていないものは悪とみなされる」 「日本人は真面目だが、本音と建前(=不真面目さ)がある」 「日本社会は病んでいる人を突き落とす」 …といった日本を語る上で重要な点が抜け落ちています。 (日本人が「フランス=パリ」と思っているのに似ていますかね?) マンガやアニメのビジネスを例に挙げれば、 週刊漫画誌が毎週発売され、何百もの漫画家が徹夜を繰り返し、血反吐をはきな がら締め切りを守り、コンテンツを生み出し、アニメが毎週放映され、そこに CMが入り、人気があろうがなかろうが、ネットで揉まれ叩かれ、3ヶ月に一度、 打ち切られる…そんなコンペティティブな国であるからこそ、多種多様で高品質 なコンテンツが生まれる…という事実を知らずに、オタクだとかポップカル チャーだとかコスプレだとかの表面だけを紹介しているのです。 もちろん、その激しさは、こちらでダウンロードしている側も「きっと大変なん だろうなあ」ぐらいの想像はしますが、「痛み」については一円も払ってないの で、理解はしていません。 真面目さの裏にあるいいかげんさ(特に政治家)、ルポタージュすらされない社 会的弱者、話題にならないぐらい一般的な「いじめ」、などなど…。 加えて、こちらの未成年者は日本と違って法律からも、社会からも強く保護され ています。 日本では、未成年に同人誌売る売らない、で運営側が社会から激しい攻撃を受け ているのに! そんな彼らに日本の著作権意識を振りかざしても、すれ違いしか起きないでしょう。 私が日本のゲーム業界で働いていたときから 「欧州市場は難しい」 これひとことで、諦めてしまい、ロストマーケット扱いにする人が沢山いました。 今でも欧州市場はゲームの中では第三世界扱いに近いところもあるのですが、 実際に、地方都市のローカルコミュニティの中に飛び込んでみると、いろんなこ とが見えてきました。 MLやBlogなどで書くにはあまりに散漫なので、いつかまとめてやろうと思ってい ますが、 P2Pによるロストマーケット、さらにネガティブマーケットによる影響は、 都市よりも地方のほうが顕著です。 少なすぎる娯楽、少ない店舗、出来ては潰れる日本関係ショップ、etc。 インターネットによって体験できる体験は、 地方都市の物理的リスクを減らしていますが、 ネットを通して社会全体を知った気になる、というリスクもあります。 まとめれば、この状況を 日本にもフランスにも「プラスのマーケット」にするには、 ・市場を育て、 ・教育と ・体験を、 ・お金を出して買うという習慣を、 ・共に働き、体を張って、見せ付けてくる。 …そういう日本の若者が、言語や文化だけでなく、 広い分野で飛び込んでいかなければ、 今後よりいっそう、コンテンツの違法ダウンロードは激化していき、 TV放送や映画も駆逐し始める日も早い、と感じています。 日本の食料自給率低下と、外食産業の構図に似ているかもしれません。 自国産ではないのに、生きるうえで必須ではないのに、 習慣として「安く手に入るから、それでいい」として、痛いものに目を向けない。 そんな悲観をしたくはないので、近い将来に、 フランスの学生が日本のコンテンツ業界に就職できるぐらいの、 フィロソフィとガッツを植え込みつづける必要があると、常日頃、感じています。 そうでなければ、日本が失ったロストマーケットは、ただのハードディスクの肥 やしと消えます。 日本に居る方には「何の話をしているか、わからない!」といった感じかもしれ ませんが、 「海外から見た日本」は、まさに「黄金の国ジパング」であり、 『どうしてそんな国が成り立っているのか判らないけど、魅力的な国』なのです。 そんな幻想を見続けるのは、双方にとって利益ではないので、 これからも、この意識、「地球の裏側でダウンロードしている彼らを救うに は?」を持ち続けていこうと思います。 しらいあきひこ