朝、研究室に行くと、教授が13歳になっていた。
…ら、よかった?んだけど。 どうやら近所の中学生が研修に来ていたらしい。 フローレンス君、13歳。 以前もこういう中学生が集団で瞬間的に来たことがあったんだけど、今日は1日みたい。 研究所内のリサーチセンターとか制作会社とかCAVEディスプレイとかをディレクター級に連れられて見せてもらってる。 社会科見学みたいなもんだろうか。 まあフランスは14歳で「パン屋になる」とか決めたら、ほぼ軌道修正は不可能な教育システムなのでこの時期に進路を考えるのは重要なんだと思う。 仕事の合間にちらりと観てると結構暇そう。 私もなんかデモしないといけない感じ。 以前、集団が来たときにはAceSpeederとかのデモで対応したんだけど、なんかそれだと芸がないので、忙しい打ち合わせの合間を縫って、課題を与えてみる。 A「Wiiとかゲーム、家にある?」
F「あるある、Wiiやってます」
A「じゃあね、企画書かいてみよう」
F「なんですか?ゲームを作るの?」
A「そう。ゲームを作るときは、いろいろこうやって基本的な技術を試しながら、こういうスケッチブックにアイディアを描いてみるんだよ」 …といって、さらさらっと新作の「Virtual Fencing(仮)」のスケッチを描いてみせる。 A「こうやって、どうやって遊ぶかとか、どういうルールでとか、おもしろそう!と思えるように描くんだ」
F「(目を輝かせて)やってみる!!」
A「ひとつじゃなくていいからな、2つでも3つでも、10でも。」 といって隣の部屋に論文執筆の打ち合わせに行ってくる。 3DStudioMaxを使ってとある画像評価シミュレーション。 小一時間後。様子を見に行くと、すでに3件考えたという。 みてみるとなかなか悪くない。 (彼のアイディア保護のために、とりあえず詳細は書きませんが…)
A「じゃあ今度は技術をやってみようか。数学とか物理はやってるよね?」
F「はい」
A「これWiiのコントローラね」
F「持ってます、家にあります」
A「これPCにつながるって知ってた?ほらこうやって」
F「あっこんなところに赤いボタンがあったんだ」
A「こうやってつなぐんだ」
F「おお、すごい」
(自作のプログラムを見せつつ)
A「上に表示しているのが、加速度、次が速度、さらにその下が位置ね」
F「ほええええ…(といってコントローラを振りまくってる)」
A「地球上には万有引力があるから、こうやって置くとZ軸、その3番目のやつに値が出る。斜めにするとこんな感じ。」
(と言って紙に物理っぽく図解)
F「なるほどー」
A「でこれが赤外線LED」
F「もしかしてセンサバーを自作したんですか?」
A「そうだよ。赤外線って知ってる?こうやって携帯電話のカメラで見ると…光ってるでしょ」
F「見えないけど光ってる…そうなんだ」
(と言って紙に物理っぽく図解)
A「人間の目で見える色がBlue、Vert、Rouge…でその向こうがInfrarouge。でも機械の目はここからここが見えるんだ」
F「なるほどー。でこれがセンサバーに入ってるの?」
A「そう。実際にはセンサー(capteur)ではなくて、片側5つのLEDが入ってる」
F「こんな風にたくさん見えるの?」
A「このプログラムではたくさん検出しているように見えるけど、原理的には1箇所しか検出できない。Nintendoのセンサは賢いけど、それでも普通は1−2個しか見えない」
彼は、赤外線が検出できるように、いろいろ振って試してみている。
F「じゃあ、どうやってテニスとかやるの?横には赤外線がないのに」
A「いい質問だ。実際には、赤外線が見えないときはさっきの加速度センサを使って検出しているんだ」
F「そうなんだ…」 私は彼が書いたデッサンを見ながら…
A「たとえばこのアイディアは面白い、でもこの場合だとどうやってセンサバーを設置するかも考えないといけない。スクリーンとの距離とか大きさもね」
F「ええと…」
A「ここは数学が必要なんだよ。いまセンサバーのLEDの間隔が20cmになってる。どうやったらWiiremoteの見える角度や動ける範囲を計算できるかな?」
F「ううんと…」 彼はなんとなく手を動かし始めたが、どうやって測定したり計算したりしたらいいのかわからないようだ。 まあ13歳の数学にはちょっと難しい課題ではある。でも不可能じゃあないと思うけどな。 …とそこに彼の父親が昼ごはんなので迎えに来る。
F「パパ…!今日ここでね、あれをみてこれをみて、それからWiiつかってこんなことしたよ!!」
一通り報告。父親にもいろいろ聞かれたので技術的に解説。
F「そう、パパ!どうやったらこの角度、求まる?」 父親、「簡単だろ…ええと…」といって詰まる。
A「38度ぐらいです、測定によると。」 父親の威厳を守るのも重要である。 さて、少年に未来の光を見せたところで、自分の仕事に戻るか…。