うちの家は子供向けゲームの研究をしているだけに、子供に対するコンピュータゲーム体験・エンカウントは非常に慎重に設定している。

こういう時代というか、職業柄、PCから映像や音が出ているだけでも息子(3歳半)は寄ってくる。 編集とか開発とかテストプレイをやっている最中は、何百回と同じ映像とか音楽とか、ゲームシーンを繰り返す必要があるので注意が必要である。

なんせ大人でもいやになるぐらいなので、脳への影響が無いなんてことは、言えない。

ここでゲーム論の基礎の基礎なのですが、 ゲームや映像といったエンタテイメント刺激というのは「今まで見たことが無い」という要素が非常に重要。

見たことがある映像、見慣れた映像やシナリオというのは、それまで長い人生や数多くのコンテンツを見てきた大人にとっては「低刺激」なのだけれども、それは高々3年ぐらいしか生きてきていない幼児には当てはまらない。

5分のプチプチアニメで大興奮できる子供にとっては、10分の絵本朗読は大冒険である。

一日の大半を寝てすごし、約10時間程度しか活動時間が無い3歳児にとって、「ゲームは1日1時間!」と言ったとしても、1日の1/10の体験を10日も習慣的に行ったとしたら、単純な掛け算をしても、24時間ぶっ通しでゲームをしているのとさほど変らない(実際には睡眠が入るので24時間連続よりも影響は大きいはず)。

CEROやESRBなどは対象年齢やコンテンツディスクリプターアイコンをつけているが、それは「プレイできるかどうか」が基準になっているだけで『その年齢に適したコンテンツであるか』ではないことに注意しなければならない。 つまり『全年齢』であるとか『3+』と書かれているからといって3歳児にとって安全であるかどうかはまったく保障されない。

実際に他のメディア研究や私の過去の実験によると、新生児でも映像コンテンツには反応を示すし、1歳半から自分が嗜好するTV番組のリモコンボタンを押すことができる子供はいるという。つまりインタラクティブメディアであっても早期から与えることで利用は可能。

もっとクラシックな児童心理学のデータで言えば、3歳は自分の行動に対する反応が理解できる、すなわちゲームが理解できる最初の年齢でるといえ、4歳で社会性、5歳でバーチャルな世界における「ゲームのルール」を理解できると言われている。 幼稚園などにヒアリングしてみても、このデータは裏付けられるところがあり、4歳児ぐらいからゲームが生活に入ってくる子供がいるという。ただしその多くは「積極的にゲームがしたい」という自発的な行動ではなく、「兄弟がやっているから」とか「ポケモンなどの話題に乗り遅れるから」といった『社会性』が動因になっていることも見逃せない。

もちろんこの種の研究は国が違えば全然ちがうので、うかつに「欧米」などと言ってはいけない。例えば、アメリカとフランスではゲームの与え方や用事に対する考え方がまったく違うし、フランス国内でも『ゲームに子守をさせる家庭』とそうでない家庭というのは正反対だ。

よくケーブルテレビの導入率(コンテンツの質、レイティングが異なる)などからその家庭の収入や共働き夫婦であることがフィルタとして用いられることがあるが、堅いデータを見たことが無いし、そういったものとの相関は無いとはいえないが、一概に「関連がある」と考えてかかるのはステレオタイプを強化するだけで、有意ではないだろう。

ただ、国際間の経験と観察のみをもって言うなれば、確実にいえることは、その家庭の教育方針によって、すでに5歳程度の年齢でゲームや子供の攻撃性には一定の傾向が観られるということ。それ以上でもそれ以下でもないが、フランスの場合はその両極端、『2つのステレオタイプ』日本よりも顕著であることを記しておく。

さて、この話題はつきないのだけれど、今日は特に『企業広報編』として掘り下げてみようと思う。

マイミクのyotaくんに教わったtepcoのサイト 『電気のちから』 http://www.tepco.co.jp/pavilion/elecpower/index-j.html

 

アニメーションやオリジナル楽曲、Flashによるゲームをふんだんに盛り込んだコンテンツで、楽しみながら電気の大切さや発電、保線作業などが学べる仕組みだ。全ステージクリアすると携帯ストラップまでもらえるらしい。 しかも日本ではこれを子供たちがプレイするよう喚起するようなCMまで放映しているとか(ぜひ見てみたいのですが見つけられませんでした)。

さっそく夕食前の実験として息子と体験してみました。

映像自体はちょっとクオリティのいい企業広報アニメーションだなあ、という感じ。キャラクターメイキングとかスクリプトとかはこんなもんでも許される世界でしょう。

Flashのゲームパートはなかなか良くできてますね。基本的には甘めですけど、5作品も含まれていて豪勢。まあやりこみ要素はゼロだと思いますが…。

個人的には、原子力発電を学ぶステージ2はゲームシステム的に面白いですね、実装はされてませんが、ここで中性子が連鎖する仕組みと放射能漏れのペナルティを導入すればかなり爽快感のあるアクションパズルゲームが作れそうです。

まあでもそうするとtepco的にはNGなのかもしれませんが。

あとそういう意味ではステージ4のダムを登るロボットは地域の反対住民とかにも置き換えられるわけで、ゲームのメッセージ性とインパクトについて裏で考察させられる点もあります。

それはそうと、小一時間プレイして、子供はまったく飽きることなく吸い込まれていました。夕食の準備も邪魔されること無く進んだわけですが…。 もちろん電気の大切さを学んではいないでしょうね、ステージ1だけ何時間もやっていれば、リビングのタイルで遊び始めたかもしれませんが。

さてそこで問題が発生しました。

子供がPCの前から離れなくなってしまったのです。

もちろんキーボードやマウスには触らせていませんが

『ご飯を食べよう!』

といっても

「いやだ!おなかは減ってない」

とすねています。

PCを片付けても、大好きなご飯のふりかけを戸棚にしまってから、部屋に逃げ込む始末。 さらに部屋を内側から封鎖して、中で笑っています。

完全にゲームの悪影響を目の当たりにしてしまいました。

まあこういう行動は予想できないことも無いので、腹も立てずに冷静に、しばらく冷却期間をおくことにしました。

その後、自分から出てきておいしくご飯をいただきましたが、 1時間のゲームに対して約30分は気持ちの切り替えをする時間が必要だったようです。

★このような子供を使った実験というのはポンポンやるものではないのでお勧めしません。Blogに書いているのも、同じ失敗をしないために結果と考察をまとめているという状況です。ごめんよ息子。

さて、話を「企業広報」に戻しますが、この種のFlashコンテンツはCEROなどのレイティング機構の審査を通しているわけでもなく、また、通したとしても元から「かなりマイルドな映像作り」をしているため、軽くパスしてしまうであろうことは想像に難くありません。

しかし、年齢制限があるわけでもありませんし、実際にコンテンツに含まれる自身ゲームが難しければ、ちょっとでも失敗すれば何度と無く「ゲーム内作業」をする必要性もつくれるわけで(ここに広告を入れれば立派な刷り込み効果が得られるでしょうけど…)、『興奮』とまでは行かない程度の『刺激』がひたすら得られます。

企業の広報側や広告代理店、クリエイタ側としては願ったりかなったりなのですが、子供は『博物館のボタンを押して回っている』のとなんら変らないわけで、コンテンツの仕組みやメッセージを理解しているわけでもなく、メディアリテラシー的には『完全無防備』なのです。

もしこれが「親と一緒に」でも話はあまり変らないでしょう。 私は元ゲーマーなので全ステージノーミスクリアですが、1回のプレイが長いステージで2・3回失敗すればテーマミュージックやSE(効果音)のひとつぐらい覚えてしまいます。 私としてはそんなSEを覚えられるぐらいなら、フランス語や日本語の挨拶でも覚えてもらいたいところなのです。

ここで『ゲームの効果は理解できるけれど、明らかに対象年齢が上過ぎる』という点を指摘しておきます。 これが小学校2-4年生ぐらいであればまた見解は違うでしょう。企業側が想定しているのは5-6年生かもしれませんが。

ちなみにtepcoは市民理解を得るために企業努力を惜しまない会社なので子供向けコンテンツなどもたくさん持っていらっしゃいます。 http://www.tepco.co.jp/pavilion/index-j.html

もし今後、このような子供向けコンテンツを作るときには、さらに細かい対象年齢などの表記をお願いしたいところです。

例えば… ■教育者/保護者同伴必要 ■対象年齢(歳)  3-5/5-7/7-10/10-12/12-15/15-18 そういう意味では『電気のちから』を例にとると、表示としては【保護者同伴なし10-12歳】もしくは【保護者同伴7-10歳】という感じになるのでしょうか。

皆さんも考えてみてほしいテーマです。