あの人は 最近さびしかったみたいだ 一緒に住んでいた家族は 戻ってこなかった 騒がしいけれど明るい家族で 私は、いっしょになって おどけたり、はしりまわったり ぐうぐうといびきをかいて寝るのが好きだった 冬の寒い日に 私は2週間ほど暇を出された。 言葉は通じるけれど、 心は通じない連中との日々。 そんな味気ないヴァカンスから帰ってくると、 あの人はひとりで せっせと食事を作り、洗濯をし、 いつもはあまりしない掃除をしたり、 寂しさを忘れるように夜を徹して働いたりしていた。 私は、あの人に できるだけ笑顔がもどるように 笑顔で接することにした。 できるだけ長い間そばにいたかったし、 あの人の好みにあわせようとした。 あの人は、 最初は少し迷惑そうにしていたけれど、 そのうち、すこしだけ笑うようになって、 それから、いろんな話をしてくれた それから、いろんな所へつれていってくれた あの人がご飯をつくるときは、 いつもひとり分ではなかった。 つくりすぎてしまった食事を あの人が食べているとき、 私は物ほしそうな顔で、 おねだりをしてみたりしていた。 私は あの人が好きな食べ物を毎日食べていたら、 いつかはあの人と同じ人間になれるだろうか… そんなことばかり考えていた。 そんな思いつめた日々をすごしていたら、 私は体調を崩してしまった。 私の汚物で部屋はどんどん汚れていく、 掃除につかれては起き、 目を覚ましては掃除するあの人。 医者から絶食を言い渡されて、 何も食べられない私に付き合って、 一緒に空腹とたたかってくれたあの人。 あの人と私は言葉は通じない。 私は大丈夫だから、と 力ない笑顔で微笑みかけると、 なんだか心配そうに微笑み返してくれる。 そう、言葉なんて要らないし、 通じている必要もない、 私たちは家族だから。 ある天気のいい冬の終わりの日、 あの人は、突然、行ってしまった。 私はできる限りの声で叫んだ。 行かないで、ひとりにしないで、 ひとりにならないで…って。 でも、その日の夜、 あの人は、笑顔で帰ってきた。 あの騒がしいけれど明るい家族と。 私は、帰ってきた家族に ぐしゃぐしゃに抱かれながら、 崩した体調のことを忘れそうになりつつも、 あの人の背中を見ていた。 あの人は、また、私とは 少し遠いところに行ってしまうのだろう。 家族とは、 騒がしくて、とても面倒なものだから。 私とあの人の あの、見つめあい、頼りあって生きた 冬の寒い日々のことは忘れてしまうのだろうか と、すこし固形物が入るようになった 食事を食べながら、 すこし悲しい予想もしてみた でもそれは明日の朝ごはんの後にでも 考えてみようと ぐうぐうといびきをかいて寝ることしにした サラ4歳の冬の日記(aki代筆)