週末の近い夜、大家にこんなことを言われた。 ここの近くの広場、土曜日にマルシェができるんよ、 花のマルシェ、とてもきれいよ? じゃあ9時半にいくから、一緒に行くな?な? あ、はあ。 いや「断る」とかいう選択肢がないこともないんですが。 この大家、自分がやりたいことやらないとまずは気がすまないタイプなので、 『すんません、いやです、私勉強しますから』 なんて言おうもんなら、 「はっ?そんなのいつだってできるやん? 気分を入れ替えて来週やればええんやって、 私のフランス語判ってる?理解した?」 …といわれるのがパターンなのである。 (※南仏訛を適当に吉本風にあててます) てゆかこの訊き方だと「Oui」以外返しようがないだろう。 私の見てきた南仏おばちゃんの中でもかなりめんどくさい部類に入ると思う。 ちなみに「Non」だと理解してないとみなされ繰り返される。 なお、ここらでこの大家について現在の印象をメモしておこうと思う。 基本的にはいい人なんだと思うが、はっきり言って現在のところ、私のアビニョン滞在の目下最大のストレスでもある。 ・大家のおばちゃん ・久元雅美似 ・60歳ぐらい ・子供4人育てた苦労人 ・一家で100年はここに住んでいる、土地持ち ・一族は代々アビニョン、ナポレオンも家に泊まるぐらい ・軽いベジタリアン、肉は魚と鳥しか食べない。 ・日本食嗜好(醤油と豆腐とゴマジオが好きらしい) ・牛乳、チーズは「悪の食べ物」らしい ・食べ物は全部Bio(有機)らしい ・ニンニクを大量に入れた生野菜スープが好き ・針灸あんまもやるらしい ・記憶力はまあまあ…いやけっこう良い ・毎日夕食を一緒に食べねばならない 他にも細かい特徴はたくさんあって、政治の話、戦争の話を食事中にするのが好き。 また他人の苦労話をひたすら訊くだけ訊いて「そんなの当たり前よ、私は…」と切り出すのがパターン。 また今日はアパートを見に来た女性が差し入れにイチジクを持ってきたらしいんだが、それを食後に出してくれるときに 「ほーんと、やさしいわねぇ」 といいながら(ちらり)と私のことを何か期待した目で見たりするようなお茶目さんである。 会話中に判らん単語(魚や植物、社会システムが多い)が出てくると、書いて辞書を引くのを助けてくれるが、会話がつながれば本人としてはそれでよいらしく、突発的。 さらにそれが日本にあるのかとよく訊いてくる。 まあサケやニシンやタラやニンニクはあるが、ハーブなどは名前だけは存在していても、そこらに生えているものではないので説明が難しい。 「牛乳を飲まない」というポリシーはこのマダムに限ったことではないらしい、先日の別のマダムも言っていた。 言い分としては、牛乳は本来子牛のものであり、子供を産まねば乳が出ない乳牛に無理やり牛乳を生産させている。 また毒性のある食品を沢山食べさせて作った牛乳は危険だ、毒の塊だ、というらしい。 ちなみにチーズもダメ、羊の乳はいいらしい。 まあ言い分もわからんことはないんだが、日本の学校給食で育った私としては、そこまで否定されるとなあ、と思う。 ところで、フランスの普段使いの牛乳は予想以上に不味い。 不味いから否定されているのか、否定される結果不味くなったのか良くわからないが、味としては低音殺菌牛乳に近い感じで、流通方式としてはロングライフ牛乳と同じ。 つまり、常温でレンガのような紙パックに入ってスーパーで山積みされている。日本のように冷蔵されているタイプのものはプラボトルで売られ味も日本の牛乳に近いが、ちょっと値段が高い。 話は大家に戻るが、過去にこのアパートで3年暮らした日本人女性、1ヶ月すごした日本人女子学生がいるらしい。 当人はフランス語の特訓のつもりでいろいろと話をしてくれているつもりなのだと思うが、 正直なところ最初の週だし、昼間の講義で本当に疲れているし、予習や復習もしたいので、 私の給料やポリシーや家族や政治思想などについて根掘り葉掘り訊かずに、できればそっとしておいて欲しい。 もちろんそういっているんだが、相手を傷つけずに的確に表現できるフランス語がわからない。 一回「本当に訊いて欲しくない話」に立ち入られたので、マジ切れして、直説法現在だけで自分の状況と怒りと訊いて欲しくない由を説明してみた。 たぶん本当に怒っているのは伝わったと思う。 が、そもそも訊いている動機自体がたいしたものではないので、本人が理解しているかどうかは不明。 それ以前にまず彼女は自分の時間で生きて、自分の聞きたいことは聞かないことには気がすまないようだ。 たぶん、フランスにはじめて滞在する語学留学日本人女子であれば非常に楽しめたに違いない。 おそらく日本では自分の親だってそんなに立ち入ったことはしてこないだろうし。 しかし私はこの国の税金で働く身なのである。 金持ち日本人の娯楽と思われても困るし、言葉が不自由なりとも 日本やフランスのために毎日一生懸命研究や教育に勤しんでいるので、 それを言語的に一方的に有利な立場からあれこれ勝手に訊き出してわかったようなつもりになるのはやめて欲しい。 少なくとも判ったようなつもりにならないと、尋問が終わらないのもつらい。 判ったら判ったで、さらに面倒な質問が出てくるので、さらにつらい。 食事の時間が長いだけならいいんだけど、さすがに毎日となるときつい。本当に胃が痛い。 食事が出来たらすぐに飛んでいかないと怒るし。 なお例の日本人学生に聞いてみたのだが、 そこのホームステイ先はこんなことはないそうだ。むしろ変わっている、と指摘された。 まあフランスの博士学生などにくらべればよっぽど普通なのかもしれないが、彼らはせいぜい月に何度か昼飯一緒にすれば良いのに対して、ここの大家とは毎夕食なのでへばり具合も格段に違う。 ああ豚肉が、米が、チーズが腹いっぱい食べたい。 ニンニクの大量に入った生野菜スープというのは、なんと言うか精進料理のようなもので、口に臭いが残っているのでこれ以上食欲は出てこないのだが、空腹中枢からの信号は途絶えない微妙なメニューだ。 買って食えばいいじゃん、というところなんだが、19時から22時といった時間にしっかり拘束されてしまうため、なかなか難しい。 細かい会計は知りたくないんだが、この人との夕食に22Euro/日を払っているとするとつらいなあ。 だからといって「要らない」といっても自分の財布が痛くなるだけだしなあ。 前置きがかなり長くなったが、そんな大家と土曜日の朝に近所のマルシェに行くことに。 「9:30に行くからね!行けるわね!?」 と、また「Non」と言いようのないセンテンスで約束を取り付けられ、昨夜は語学学校の友人らと最後の夜に出かけた(日記参照)。 …で、起きたら10時だった。 大家はすでに部屋にはいないようだ。 簡単に言うと置いていかれたらしい。 なんだか残念なのか単に振り回されているだけなのか自分でも良くわからん気持ちでシャワーを浴びて独自に散歩に出ることにする。 例の花のマルシェは歩いて1分ぐらいのところにあった。 多分、野菜とか重めの荷物を持って歩かせるつもりだったのかもしれないな、となんとなく気づく。 偶然、マルシェで今日アビニョンを発つ語学学校の同僚2名に出会う。日本人とドイツ人のマダム。 ホームステイ先の大家さんにプレゼントする鉢植えを選んでいるらしい。 なるほど。そうだよなあ世話になってるんだからそれぐらいしてもいいよなあ。 と思いながらも、うーん、いまのところうちの大家にそういった行為が自然に出来る状態にはなっていないなあと再認識。 たとえて言うならシゴキにシゴいてくれる体育会系部活の先輩みたいな存在でしかない。今のところ。 なんて感じのことを考えながら、毎日通学に使っている教会前の広場をざっと歩いてみた。 同じ教会前の広場なのに、また違った姿に見えるなあ、と思いながらも、 マルシェそのものには普段から生活者としてなじんでしまっているので全く持って観光チックな盛り上がりはできなかった。 むしろ、普段は見向きもしないような「鳥の丸焼き車」の前で涎をたらして「いくらかなあ…。」などとボーっと立ち見していたぐらいである。 困ったことにすでに自分自身一部ベジ化していて、ビジュアル的にはうまそうなんだけど、肉の臭いをかいだとたんに気分が悪くなって立ち去った。 映画「マダガスカル」のライオン・アレックスと全く同じ状態なのかもしれない。幻覚が見えているのかも。 映画の中では結局、アレックスは魚を食べるというオチで解決するのだが、私はいったい何を食べて解決するのだろう? とりあえずこのマルシェで売っているものではなさそうだ。
アビニョンの週末:近所のマルシェでの回想録
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