「君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか」 現代世界の歩き方(15) 東工大講義録から (日経新聞・2012年9月3日) http://www.nikkei.com/article/DGXZZO45514050Z20C12A8000000/?dg=1

池上彰氏は今年度東工大で教鞭を振るうようになった. (世界文明センターがありながら, リベラルアートセンター作るってどうなのよ!とは思ったが) まあでも大学としては,日経新聞に連載まで作ってもらって, 広告効果で換算すると大きんだろうな. ほとんどが国の税金でやっている国立大学がやることじゃない気もするけど. …という感想を抱きながら,日経の連載をチラチラ読んでいた. 講義録を見ている限りでは,教育的な手法は私とあまり変わらないし, 自分の担当している世界文明センター「メディアアート技法」ではもっと高度な話や,ワークショップも展開している. まあでもアート&サイエンスの枠組みも含めて,「現代における教養」という切り口は今の世の中には求められているだろう. 特に東工大という文化の中で,「教養」というものに対する考え方は, 世間一般の「教養」ともかなり開きがあるしね(詳細割愛). で,最終回のお題は「サムソンに引きぬかれて出戻った人」の話. 私のいたキヤノンとかでもよくある話. まあ「よくある」とか言ってしまえるほど,石を投げれば当たるような人ではないのだけれど. だいたい10年~5年前ぐらいだと,日本の開発の最前線で活躍されていたエンジニアであれば,韓国企業が年俸5千万円ぐらい出してくれて,家族の教育もインターナショナルスクールで保証されていて,場合によってはお手伝いさんもついちゃう.そんな時代でした. 「だいたい5年ぐらいで搾り取られて捨てられるんだろうけどね,それでも生涯賃金では日本人より上だし,ついでに家族に国際感覚も身につく」 そんなことを言っていた感じの人が動いたり,やっぱり動かなかったりした. ちなみに動かない側のエンジニア,私と同じ年齢で800万~1000万円ぐらいの年収. 某C社の場合は年金や社保もばっちりだし,会社の提携保養所やスポーツクラブだっていけちゃう.合コンすればモテまくりです. それで「サムソンで一山当ててきたから,日本企業に戻って来ました」という(東工大卒業生にも居そうな)ペルソナを扱っているわけです.答えている学生も若いよな.就業経験ないし,理想論すぎるし,本気出せば,理想論ではなく海外の大学に受かる人々. そこで,池上さんの最終回の締めの言葉は.

イチローはマリナーズのファンからスタンディング・オベーションで迎えてもらいました。声援、祝福を送ったわけですね。私は「こういう風土の国は強いなあ」と感じました。 翻って日本の産業界。韓国のサムスンへ移籍した技術者が帰国して迎え入れる時、日本の企業はどのような受け入れ方をするでしょう。「ライバル企業ではどうだったんだい」「よく頑張ったね」と、皆で受け入れてくれるような企業であってほしい。またはライバル企業へ祝福して送り出してくれるような会社であれば、再び戻った時に「また頑張ろう」と思ってくれるかもしれません。個人と企業、社会の「幸せな関係」とはどうあるべきなのかを考えてほしいと思います。この「幸せな関係」を築けない企業は、グローバル化の中で衰退していってしまうのだと思います。

「衰退していってしまうのだと思います」は結論になってないと思う. 個人と企業,社会の「幸せな関係」とは? 池上彰さんのいう「幸せ」ってなんなんですかね? ヒーロー以外,「それ以外の人々」の幸せを全く考えてないよね. 今の大企業とかって,実力もそこそこしかない,毎日会社に出てくるしか脳がない一般社員でも,人より安定した給料を得て,次の世代に教育費を捻出できるような社会を作ってるわけじゃないですか. もちろんそういう一般社員だけでなく,才能もあって,ヤル気もある人たちが,いろんなことを我慢しながら作ってきているわけじゃないですか. 「みなさんがよりよい生き方を見つけて下さい」 そんな終わり方で拍手もらっちゃダメだと思う. まあ記者の書き方にも問題があるのかもしれないけど. 自分はもっと,社会の変革に貢献できる講義にしようと思う. より強くそう思うようなった.